天槍のユニカ



目醒めの儀式(16)

 ラドクが隣に並んでくれたおかげで、クリスティアンは表情を変えずに済んだ。養父と父と指揮官を屠られた同じ恨みを分かち合える仲間が、クリスティアンより感情をあらわにアレシュを睨みつけていたからだった。
「行こうぜ、隊長」
 ラドクは年下の上官の肩を叩き、アレシュにはぞんざいに頭を下げただけで踵を返す。クリスティアンも、結局はアレシュの言葉には何も返さなかった。

     * * *

 ユニカとしては、早く花を片付けこのまま部屋にこもってしまいたかった。エリュゼの授業も受けたくない。今日はもう、大人しくしていたい。
 そう思っていたのだが、この頃は予期せぬ時に予期せぬ人と会う。いや、多分その大半は誰かによって仕組まれているものなのだろうが、日に二度目とあってはまぁいいかとも思えなかった。
 それゆえ、城門をくぐり馬車を降りたところでディルクと出くわしても、驚く気力も焦る気力もなく、ぼんやりしながら青駒から降りる彼を眺めていた。
 近衛騎士達を引き連れディルク自身も軍服姿だったが、身軽な様子だった。またどこぞの視察へ行っていたのだろうか。エリュゼやクリスティアンから聞いている話だが、彼もユニカのように城外へ出て、まずはアマリアの街を囲む城壁と兵士の詰め所を点検しているらしい。
 ユニカの護衛がディルクの部下達である以上、ユニカの動向を彼が知らないはずはない。今日も外から戻ってくる時間を合わせたというところだろうが……。
「元気がないな」
「……別に」
「何かあったのか」
 ディルクに会うのは久しぶりだった。いや、厳密には何度か顔を合わせていたが、今日とは逆で出かける時間が重なり、前後して城門を出る時に互いに「気をつけて」と形式通りの挨拶を交わしたくらい。
 ディルクはもう少し反応があることを期待していたのか、少々残念そうに、そして怪訝そうに視線を落とすユニカの顔をのぞき込んできた。

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