天槍のユニカ



目醒めの儀式(7)

「ティ、ティアナ、君、お嫁に行ってしまうのかい!?」
「……どなたから聞いたの?」
「さっきの侍従会議で、ツェーザル様から……!」
 カミルがしばし不在にしていたのはくだんの会議のためである。
 侍官達の間でクリスタの結婚やティアナの縁談が噂になっているのだとしたら、一番近くで仕事をしていたお前がなぜ知らない。会議に出席していた侍従達がそんな目でカミルを見ているところがありありと想像できた。
「お相手がどなたかは教えてくださらなかったけど、君ほどの女性だもの、きっといい奥方になるね……! どうか幸せに――いひゃ!?」
 ティアナは彼女のために涙ぐむカミルの鼻を思い切りつまみ上げて黙らせた。そして、もう一方の手で肩に乗っていたカミルの手を解き、年上の上司を厳しく睨めつける。
「殿下の御前でやかましいわよ。わたくしの個人的な話はよそでして」
「あっ、うん、そうだね。申しわけありません、殿下」
「俺は別に構わないが……」
 それにしても、ティアナが将来大公妃になるということは知らされなかったのか。
 ツェーザルの意地悪かも知れないが、情報を得るにしてもまったく後手に回ることしか出来ないカミルに呆れつつ、この二人の愉快なかけ合いが見られなくなってしまうのは少しさみしいかもな、とディルクは思った。

* * *

 雪深いシヴィロ王国にとって、春は様々なものごとを始める季節。
 だからというわけではないが、ユニカも冬眠から目覚めたヤマネのように忙しなく王城から出歩いていた。
 といっても行き先はただ一カ所。グレディ大教会堂である。その中でも大導主パウルの執務室と、ついでに大聖堂へ立ち寄って挨拶代わりの礼拝をするだけなので、とても控えめな外出だった。
 しかし今日は行き先が一つ増えた。
 訪れるのは三度目だが、そこにいる人々の様子を見るのは初めての施療院である。
 ユニカが病室をこっそりと覗いたところで背後にいた人物がくすくすと笑ったことに気づき、なにかおかしなことをしただろうかと身を縮めながら振り返る。

- 944 -


[しおりをはさむ]