天槍のユニカ



目醒めの儀式(5)

 けれど、もともとウゼロ公国にも一族の拠点を持ち、大公家とも縁のあるイシュテン伯爵の由来を考えると、シヴィロ王家が反対する理由はない。
 むしろ王子二人と付き合い≠フあったティアナが大公家と王家の橋渡し役になってくれる。彼女はそういう気配りが出来る聡明な女性だ。
 そう発言したのはディルクだったが、かつてティアナに息子の世話を任せていた王も納得したようだった。
 大公家との関係が水面下では冷え切っていることは誰より王が知っているし、彼なりにそれを正そうというつもりがあるのだ。
 それゆえ、もうしばらくの検討期間を経たのちにエイルリヒとティアナの婚約は正式に認められるだろう。
 そして、その婚約の申し出と同時に、エイルリヒからディルクのところへ直接手紙が届いていた。
 曰く、婚約の話がおおやけになるからにはティアナを侍女として使うのをやめろ、とのことだ。
 確かに自分の妻になる娘がほかの男に仕えているというのは気分が悪かろう。ディルクもティアナもまったく気にしていなくても、エイルリヒは気にして遠く公国の城にて嫉妬の炎を燃え上がらせているに違いない。
 放っておいたらそのうち呪いでもかけられそうなので、ディルクはあっさりとティアナを辞めさせることにし、ティアナもすんなりとディルクの傍から退くことを承諾したのだった。
 といっても、ティアナが王城に出入りできなくなるわけではない。侍官の職を手放したなりにやってもらえることはいくつもある。
 しかし、ディルクの昼食が予定に合わせた都合のよい時間にちゃんと出てくるかは少し怪しくなる。
「働きぶりからいえば、エミにわたくしのあとを任せたいのですが……」
「彼女はだめだ。俺のエスピオナとしての任務があるときはとてもじゃないが侍女の職務に専念できない」
「それも承知しております」
 エミはディルクが王から自由に使ってよいと与えられた唯一のエスピオナだ。エスピオナであるからには、彼女の上官もエスピオナの長というもう一つの顔を持つツェーザル侍従長だが、カミルと違って、エミはよほどのことがない限りはディルクの命令を最優先にする。

- 942 -


[しおりをはさむ]