天槍のユニカ



目醒めの儀式(4)

 ディルクの予定の管理や公務の調整は、ディルクが自分で考え必要なことを関係各所に伝達するようカミルに命令しているし、その予定をこなすために必要な衣装の用意や食事など、生活の段取りはティアナが行っていた。
 したがってカミルがしていることといえば、五人いる王の侍従と行う侍従会議に出席し、ディルクの動向を悪気なくつぶさに侍従長に報告してしまうことだ。
 それゆえ、侍従長を通してディルクのやることなすことはほとんど王に筒抜けなのである。
 王にこれ以上#髢ァを作るべきではないと思うものの、もう少しディルクの個人的な事情を慮ってくれるようカミルを躾けた方がいいだろうか。
 先日来、王のディルクに対する監視が強化されているのだろうと思うと少々やりにくい。特にユニカと接触することについて。
 今日も彼女と運よく出くわす≠謔、に予定を調整してあるけれど……どうにかしてカミルと別行動になるよう工夫せねばなるまい。
「カミルには申し訳ないのですが、わたくしもクリスタと同じ思いですわ。あの人ったら、お茶を淹れるのが少し上手いくらいしか取り柄がないのですもの」
 お茶か。そういえばまあまあ……。ふにゃふにゃした笑顔でカップを運んでくるカミルの顔を思い出し、正直、侍従には必要ない能力だなと考えながらディルクはペンを回した。
「カミルはツェーザル侍従長の身内ですから、ほかの者にすげ替えるのはなかなか難しいかと思います。ですが、殿下はこれからますますお忙しくなるでしょうし」
「ティアナにそこまで心配してもらえているとは思わなかったな」
 そして、ティアナがそこまでカミルに期待していないとも。
 思えば二人はクヴェン王子の傍付きだった頃から一緒だ。ティアナが出仕し始めたのは十四の時というから、もう三年はカミルの仕事の不足を補ってきたことになる。案外嫌気がさしていたのか。
 しかし、それも今月いっぱいで終わりだった。
 新年の祝いが落ち着くと、ウゼロ大公家からシヴィロ王家に、イシュテン伯爵家の娘ティアナと公子エイルリヒの結婚の許可を請う便りが届いたからだった。噂の元はそれだ。
 シヴィロ王国の宮廷にとってはまったく想定していなかった話だったので、王や側近達は驚愕していたしディルクも事情を聞かれた。ディルクも詳しいことは知らなかったと答えるしかなく、当のイシュテン伯爵ももごもご言うばかりではっきりしないし――それは伯爵の元からの話し方なので仕方ない――王もしばらく面白くなさそうな顔をしていた。

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