天槍のユニカ



目醒めの儀式(2)

 クリスタは丸くした目を何度も瞬かせたが、すぐに屈託ない笑みを浮かべて頷いてくれた。
「はい、わたくしでよければ喜んで」
 彼女の婚約者も特別に嫌な顔はしていない。それをさりげなく確かめてからディルクもつられるようにして微笑んだ。
 ユニカには歳の近い普通の友人≠ェ必要になってくるだろう。その役割は、悪目立ちしたりユニカと同じくらいにわけありだったりするレオノーレとエリュゼには難しい。もちろんあの二人がユニカの傍にいてくれれば心強いのだが。
 ともかく、クリスタがユニカに気に入られれば将来それなりの地位を与えてやれるし、夫になる騎士もディルクは用いやすくなる。
 こつこつと手駒を集める手はずを整えながら、ディルクはティアナを通して二人に祝い金を差し出した。
「ローマン、どうかクリスタを大切に。それと、彼女のような素晴らしい女性を妻に迎えられるのだから今後ますます職務にも励めるというものだろう。これからも卿の働きに期待している」
「はっ」
 照れくさそうに、けれど幸福に満ちた張りのある声で敬礼する部下をもう少しからかってから、ディルクは二人を送り出した。


「ティアナ」
 クリスタと彼女の婚約者ローマンとともに王太子の執務室を出たティアナは、いつでもほがらかに呼びかけてくる同僚を振り返った。
「短い間だったけど、ティアナにはとてもお世話になったわ。ありがとう」
 クリスタは王族に仕えていたという箔をつけるためだけに東の宮へ入り込んできたような娘だったが、彼女の両親の思惑はともかく、本人は頑張り屋だったのでティアナの評価は決して低くなかった。
「こちらこそ。どうぞお幸せにね」
 それでも特別親しくなった覚えはなかったので、ティアナは形式的に応じた。するとクリスタは婚約者に先に行っているよう促し、近衛兵の耳を気にしつつそっとささやきかけてくる。

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