いてはならぬ者(21)
更に動く人の気配。ユニカは振り返る。
が、その途中で左の腰に熱いものが突き刺さった。
誰かが激しくぶつかってきて、ユニカは思わず本を放り投げ勢いのまま柱に叩きつけられる。
「……っぅ、く」
胸を打った痛み以上に、腰に感じる痛みの方がずっと強い。息が止まりそうだ。
ユニカは痛みを堪えて自分の下半身を見下ろした。
ドレスの腰から下に、じわじわと赤が広がっていく。
「きゃああああ!!」
石床に這いつくばっていたテリエナはそれを見るや絶叫して気を失ってしまった。
ユニカから数歩離れたところに兜で顔を隠した兵士が立っていた。彼の手には刃が真っ赤になった短剣が。
床に転がった女官には興味がないらしい。刃を振りかざすと、彼は柱にすがって立つユニカに再び襲いかかる。
殺される。
ユニカの身体は本能的に刃を避け、柱の反対側へ逃げた。鋼が大理石を抉る耳障りな音と、いらだった舌打ちの音が聞こえる。
まだくる。ユニカは刺し傷を押さえ、柱廊の外へよろけながら逃げた。
その背中を兵士の短剣が斜めに走る。雪に足を取られ転んだお陰で、切っ先はコルセットをがりがりと削っただけだ。
傍に見えた石像にすがりついて立ち上がると、今度は後ろ髪を乱暴に掴まれた。痛みで仰け反れば、温室の近くで呆然と様子を見ているフラレイ、そして兵士たちの姿が見えた。
彼らは助けてくれない。
助けてくれるひとは、もう傍にはいない。
背後から感じる殺気。静かになった頭の奥でぱちんと青い光が弾ける。
「うわっ!」
明るい陽光の下では見えないほどの小さな稲妻が、ユニカを押さえつけていた兵士の短剣から腕へと走った。怯んだ兵士からユニカは逃れるが、出血のせいで石像に背中を預けたまま動けない。
「よくも……!」
反撃に激昂した兵士はユニカの首を押さえつけ、短剣をユニカの胸めがけて振り下ろす。
- 38 -
[しおりをはさむ]