天槍のユニカ



レセプション(15)

「ディルク様はすぐにお妃をお探ししてよいお歳。自分が目に留まればと考えるのは、あの年頃の娘ならば当然考えることでしょう」
「貴卿のご息女もそうであるように?」
 控えめな笑い声が細波のように揺れる。しかしそれが静まったあとの沈黙はより重いものとなった。
「無系の娘とはいえ、両陛下がご養育遊ばしたとあって着飾り方はよく知っておる」
「着飾る道具も知恵も陛下がお与えになるから……」
「囲うならせめて城の外にしてくださればよいものを。早速あの娘は殿下の気を惹こうと現れて、」
「殿下のご入城から含めて立儲(りっちょ)の儀礼であろう。女官と無系の娘ごときが近寄れる隙を潰しておかぬとは、貴卿の怠慢ですぞ」
「なんと! 本日の件は番兵の統率がなっておらぬが原因でしょう」
「その件の追求は、もうよいと陛下が仰せではありませんか」
「今肝要なるは、新しい王太子殿下があの魔女に陥れられる前に、魔女を遠くへ≠竄驍アとです」
 力みながらささめきあっていた男たちはぴたりと黙りこんだ。不穏な何かを感じて葡萄酒を飲む者もいる。
「しかし、あらゆる毒が効きませんでしたな」
「いずれも体調は崩していたようだが」
「三日寝込むだけで回復されては意味がない。どころか、忌々しいことにあの娘の血は陛下が口になさる。下手をすれば陛下の御身にも危険が」
 言った者は後悔しながら自分の杯を眺めた。薄闇の中で赤黒い液体が血に見えたのである。
 吐き気を催している彼の隣の男が、決意して一つ頷いた。
「やはり心臓を貫いてしまうのが一番よい」
「しかしそれでは、」
「天槍に焼かれることを恐れぬ同志はおりますぞ」
 あの娘が、一夜にして数百人を灰と炭に変えたという事件は、わずか八年前のこと。
 『天槍に焼かれる』。それは決して古い記憶ではない。彼らは一様に息を呑んだ。
「西の宮へ近づくことになりますな。根回しを重ねる必要があるのでは」
「そのような時間もない。殿下が娘に接触する前に、王城から消し去るのです。そのために誰かが死ぬことになろうと」

 自分たちでなければ、それでよいのだ。






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