天槍のユニカ



レセプション(14)

「はあ。女性に関するアレコレは兄上の方がうんと経験豊富で確かでしょうからお任せしますけど」
 事前に入手してあったおおまかな城の見取り図を覗き込み、ウゼロの公子二人は報告の入って来た場所に印を付けていった。
「王子の近くには住んでいなかったようですね。当然ですが」
「あと確認していないのが、このあたりか」
 高い丘をまるごと城壁で囲ったエルメンヒルデ城。その中心部は内郭と呼ばれ、主要な儀式を行う大広間や大小の議場、各大臣らの執務室があるドンジョンと、王族の住まいである三つの宮殿に分かれていた。東西にある宮殿の内、西の宮にくだん娘はいると思われる。
 西の宮とドンジョンの間には図書館や大庭園、温室など王家のプライベートな空間が作られているため、廷臣はその先へ入り込めない。秘密を隠すにはうってつけの場所だ。
 ディルクの入城とともに潜り込んだマティアスの部下たちは、次にそこへ向かうと報告していった。
「あとは確認を取るだけ。迷い込む≠フは簡単そうだ」
 ディルクは『図書館』と書かれた建物、そして周辺に広がる庭園を指でなぞる。
 王は王家の空間を使い、政治の行われるドンジョンと彼女を隔てて守ってきたようだ。
 しかし、この防衛線が通用するのは廷臣に対してのみである。今夜には国王の猶子となるディルクが西の宮に近づくのはあまりにも簡単だった。図書館へ行く道を間違えて宮殿に迷い込めばいい。
「お時間のようです」
 呟くようにマティアスが言った直後、控えの間の扉を叩く音が響いた。
 見取り図を静かに畳み、エイルリヒが懐にしまう。
 ディルクは口許を笑みで歪め、長い上着の裾をさばいて立ち上がった。

 その日、シヴィロ王国は無事に世継ぎを得た。

     * * *

「クヴェン殿下がお亡くなりになればすぐにでも動くかと思っていたが……あの娘、王妃の座ではなく太子妃の座を狙っていたか」
 蜂蜜と香辛料を混ぜた温かい葡萄酒の香りが部屋に充満していた。互いの顔もよく見えないたった一つの蝋燭の灯りに集い、彼らは話し合っている。

- 16 -


[しおりをはさむ]