冬は去る(23)
そうやって想われていることを、君はもっと知るべきだよ。
恐らく今も毛布の中で悶々としているであろうユニカにそう語りかけ、ディルクは踵を返す。
「好きにするといい。ただし、ユニカがいいと言うのであれば」
さらに深く腰を折るエリュゼの様子は確かめず、背中で扉が閉まる音を聞く。
そうして用意されていた馬車に乗り込みながら、自分で口にした言葉を以前にどこかで耳にしたことがあるような気がした。
(……ああ、陛下が)
『ユニカがよいと言うのであれば』。王はディルクに向かって何度かそう言った。
あれにも、ユニカを真綿でくるむような気遣いがこめられていたのか。
「出せ。グレディ大教会堂へ」
車の傍に控えていた騎士に命じ、すぐに響き始めた車輪の音に身を委ねながら、ディルクは硝子を透かして入り込んでくる陽光を手のひらで受け止めた。
形はなくとも温かい。この光が氷を弛ませ雪を消し去り、眠っていた緑を芽吹かせる。
ユニカの手にも、こんなふうに降り注ぐものがあるはずだ。たとえその手が罪と血に濡れていても。
ユニカは血の色が照らし出されることを恐れているのかも知れないが、それでも彼女は、その手で春の陽射しを受け止めなくてはいけない。
それが出来なかった者はどのように生きていくことになるか。ディルクは知っているから、そう思わずにはいられなかった。
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