天槍のユニカ



冷たい夢(2)

 時間が経ち、理由も分からぬままざわついていた心が落ち着き、アヒムとの暮らしに慣れてきた頃。ユニカは偶然、自分が導師に引き取られた理由を悟った。
 ユニカの親はもういない。亡くなったのだとアヒムから聞いた。
 彼らはただ死んだのではなく、殺されたそうだ。彼らの娘、つまりユニカに。
 誰かから聞いたわけではない。
 優しくユニカに接してくれる村人達だったが、彼らの目には時折怯えが浮かんだ。ひそひそともれ聞こえる声。そうした違和感の断片をつなぎ合わせ、ユニカは自分でその答えを導き出した。
 また、目に映るものすべてに灰色の靄がかかる。でも不思議と動揺はしなかった。していないつもりだった。
「ユニカ」
 しかし、やはり養父から見れば様子がおかしかったようだ。
「今日は繕いものをありがとう。上手になったね。とてもきれいに縫えているよ」
 こく、と頷くだけで、ユニカは手許の本から顔を上げようとしない。その隣に椅子を持ってきて、アヒムは穏やかに笑いながらユニカの横顔を見つめてくる。
 お互いに黙ったまま、しばらく。沈黙に堪えきれなくなったのはユニカだった。
「なんですか、導師様」
「ユニカこそどうしたの?」
「わたしはどうもしていません。導師様の方が、ご用があってわたしを見ているのではないのですか?」
「……そうだなぁ」
 ユニカの不満げな視線を惚けながらかわしたアヒムは、彼女から本を取り上げてテーブルに置き、その小さな身体を自分に向き直らせた。
「元気がないよ」
「そんなことありません」
「じゃあ怒ってる?」
「そんなことありません」
 顔を覗き込んでくる養父の前でこれ見よがしに唇を引き結び、ユニカは取られた本を奪い返そうと手を伸ばした。しかしアヒムはさっと本を押さえ、テーブルの上を滑らせて遠くへやってしまう。

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