天槍のユニカ



ある少女の懺悔−亡星−(1)

第10話 ある少女の懺悔―亡星―

 厨房にある小窓から外の様子を覗い、あたりに誰もいないことを確かめる。そして内から鍵をかけてあった勝手口を開け、ユニカは井戸に駆け寄った。
 持ってきた二つの鍋にそれぞれ水を汲んで、軒下にあった薪も一抱え厨房に運び入れると、再び勝手口に鍵をかける。
 扉が開かないことを確かめて一安心した彼女は、水で満たされた重たい鍋を一つずつ竈に載せて、その中に砕いた薬草の葉と根をざっと放りこんだ。
 これがこのところのユニカの仕事だ。アヒムの代わりに薬を抽出する大事な仕事。
 夏の初めから流行っている悪い病気≠ヘまだ収まる気配がない。ブレイ村には相変わらずたくさんの人々が助けを求めてやって来る。ここでは王都で医薬について学んだ養父をはじめ、近くの大きな街の施療院からやって来た導師も一緒になって病気の治療をしているから、だそうだ。
 ユニカがアヒムから説明されたことはそう多くなかったので、ブレイ村から最も近く大きな教会堂を有する街ベナークがすでに都市としての機能を失い、領主の貴族も逃げ出してしまっていることは知らなかった。
 ただ、大勢の人々の治療に奔走している養父や彼の同胞が忙しいということくらい、ユニカにも分かる。養父に薬作りの手伝いを頼まれたのはむしろ嬉しいことだった。言われたとおりに薬草を混ぜて煮出す簡単な仕事でも、これが養父の役に立つなら……。
 竈の中でとろとろと燃える火に新しい薪を与えたユニカは、そのままそこへ座り込んだ。やわらかな炎の揺らめきは、ここ数日ユニカを捕らえて放さない眠気を助長する。
 嫌な眠気だった。何も考えたくなくなるし、濡れたシーツが被せられているように身体も重い。
 けれど湯が沸いたら薬草の煮汁がより濃くなるように掻き回してやらねばならない。こんなところで居眠りをしている暇はないのだ。
 そう思いながらもユニカはうつらうつらし始める。灰色になった頭の中にどこからか人の怒鳴り声が聞こえてきた。遠くから響いてくるその声がなんと言っているのかは分からないものの、気怠い眠気の中に黒いもやのような不安を湧きあがらせる。
 いやだな、聞きたくない。抱えた膝に眠たい額を擦りつけるくらいでは怒声から逃れることは出来なかったが、ユニカは耳を塞ぐ気力もなかった。
 そんな眠気を一瞬で追い払ったのは食堂の窓を叩く音だった。ユニカは少々乱暴なその音に跳ねおき、すべてのカーテンを閉めてある薄暗い食堂へ様子を覗いにいく。そして窓を叩くその音が決められたとおりの#庶qをとっているか確かめてから、玄関を開けに行った。

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