なぜかその姿の方が痛々しくて、ユニカは傷跡よりも喉の奥に強くて鈍い痛みを覚える。
「ご、ごめん、なさい」
　息が詰まって上手く声が出ない。それでも言葉をつっかえさせながらそう言えば、喉の奥で膨れ上がっていた痛みが弾けて、はっきりした後悔に変わった。
　腕に添えられた手から伝わってくる。ユニカを労ってくれる養父が、ひどく傷ついていると。
　当たり前だ。だって、彼は自分の持てる力と知恵と言葉とを尽くして、��普通の女の子�≠ﾅあるユニカを守ってくれていた。その庇護をユニカ自身が破った。
　そのことが養父を傷つけるかも知れないと分かっていたが、同時にユニカは、��養父なら許してくれる�≠ﾆ思ってはいなかったか。キルルが元気になれば、ユニカが望んだことであるならば、彼が大切にしていたものを壊しても、アヒムはきっと許してくれると。
　噴き上がる後悔は、すぐに冷たい怖れに変わった。
　キルルがアヒムにするように、アヒムがキルルにするように、閉ざした扉のように冷ややかですがりようのない背を向けられるのではないか。
　そんな恐怖をユニカが隠せようはずはない。ユニカにとってアヒムは親であると同時に、今生きている世界の始まりをくれ、支えてくれている人。アヒムに突き放されることは、この世から突き放されるのと同じことだった。
　ほとんど本能的な恐怖で色を失ったユニカを、アヒムはいつものように抱き寄せてくれる。
「大丈夫」
　鍋が少し邪魔だったけれど、ユニカの身体は香木のよい匂いがする法衣にくるまれる。額に押し当てられた養父の口許からは、温かい吐息とともに言い聞かせるように震えた声がこぼれてきた。
「キルルを助けたかった君の気持ちは分かってる。私のことを思ってくれたのも、分かっているよ」
　アヒムの言葉の後ろに、何か激しく波打つ感情が隠されているのはユニカにさえ感じ取ることができた。ところがその激しい波は、夏の陽射しと次に見上げた養父の悲しげな笑みの奥に、嘘のように潜んでいった。
　養父が隠してしまった気持ちには触れない方がよいのか、それとも追いすがって詫びた方がよいのか、ユニカには分からない。