ある少女の懺悔−罪禍−(22)
その優しさは咎められるべきものではないけれど、アヒムは知っておかなくてはならないのだ。
「――キルルに、血をあげたの?」
努めて穏やかに言ったつもりだったが、ユニカの表情は瞬時に凍り付いた。いけないと分かっていることをした時の顔だ。それも、エリーアスと一緒に悪ふざけをして遊んでしまった時とは比べようもないくらい、深刻に後ろめたく思っている顔。
そうとしか考えられなかった。キルルがいた場所は、死の淵でも引き返せるような浅瀬ではない。アヒムの知識がそういう。
そして、ユニカがキルルの家を訪ねてきたあの夜、この子は一人だった。ロヴェリーを起こしていたなら一緒に来ればよかったものを、わざわざ一人で危険な夜道を歩いてやって来た。
その行動に何か意図があると気が付くことさえ出来ていれば、アヒムはせめて、ロヴェリーが来るのを待ってからキルルの傍を離れると言うことが出来たし、ユニカとキルルを二人きりにはしなかったのに。
「ユニカ、返事をして」
動けないでいる娘の肩を揺すると、あっという間に色を失った小さな唇がかすかに震える。
「キルルが、死んじゃうのが、いやだったから……」
突きつけられると分かっていた答えなのに、それは、アヒムの周りから朝日の温かさを消し去るに足る衝撃を伴っていた。
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