天槍のユニカ



ある少女の懺悔−魔風−(12)

「太守様の孫姫様のドレスを縫ったことがあるからだろう? イヴァの仕事ならきっとすごい額のお給料が貰えるよ」
「この頃外の仕事をしてばっかりだものね。キルル、村を出て行くつもりなのかね」
 その一言にユニカはびくりと身体を強張らせた。
 キルルが村を出て行く。
 それはもしかして、ユニカのせいだろうか。ユニカのせいで、キルルはアヒムを「すき」ではいられなくなったから。
 キルルが、アヒムのためだと言ってユニカの腕に血抜きの針を刺したことが思い出された。
 ずきんと痛む胸。
 養父が助かるならいいと思って、ユニカは頷いた。でも、キルルがいなくなってもいいとは思っていなかった。
 なのに、あの時からすべてがおかしい。
 ユニカがきゅっと唇を噛んだその時、女達の話を遮るように玄関の扉が叩かれた。村長の夫人が「はぁい」と返事をするのと一緒に、窓辺にいた女がひょいと外へ首を出して来訪者の姿を確かめる。
「あら、導師じゃないの」
 こんにちは、と応える優しい声が窓の外から聞こえてくる。
「ユニカのお迎えかい?」
 村長夫人が玄関を開けて迎えると、そこに佇んでいたアヒムは鷹揚に頷いて見せた。
「はい、いつもありがとうございます。それから、今晩区長達を集めて会合を開きたいのですが……村長はまだ畑にいらっしゃいますよね」
「伝えておくよ。いつも通り、晩鐘のあとでいいんだろ?」
「ええ。でも、お帰りになる頃にもう一度伺います。おいで、ユニカ」
 女達の腰の間からアヒムの姿を見つめていたユニカは、呼ばれるや否や養父のもとへ駆け寄った。
 キルルがいなくなるかも知れない。そんな不安と悲しさを受け止めて欲しくて。
「こらこら、お勉強の道具を置いていく気かい?」
「ぜんぜん広げなかったから忘れてたんでしょう」
「ええ? ユニカ、お勉強は?」
 やりなさいと言われていたことをやらなかったのは事実だが、今のユニカはそれどころではなかった。彼女は唇を噛みしめたままアヒムにぎゅうっとしがみついた。

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