天槍のユニカ



ある少女の懺悔−魔風−(11)

 しかし、ひときわ大きくなるキルルの泣き声に、アヒムの胸の片隅で張り詰めていたものが少しだけ弛んだ気もした。

     * * *

 村長の家には近所の女達が集まって、大霊祭のタペストリーの図案を相談しているところだった。
 先ほどまでのユニカと同じように見本の絵が描かれた本を開き、大きな木綿の布に実寸大の下絵を描いているらしい。
 書き取りの練習をするようアヒムから言われたのは覚えていたが、食卓の上に広がっているのはさっき自分が描いていたのよりずっと上手で見栄えのよい下絵だ。興味を抱き、ユニカも女達の輪に混じってタペストリーの原画が出来ていくのを見守っていた。
「そういえば今年はユニカも自分のを織るんでしょう? 絵は決まったの?」
 するとユニカの隣で食卓の上に身を乗り出していた若い女が唐突に尋ねてきた。キルルより少しお姉さんな村長の娘、トエラだ。
「……鷹の絵にするの」
 不意打ちの質問にか細い声で答えれば、トエラは身体をかがめユニカの鼻先でにっこりと笑った。
「そう、決まったのなら今度は経糸を用意しなくちゃいけないのよ。明日、絵を持ってまたうちにいらっしゃいな」
 ユニカは食卓のふちにとりついたまま頷いた。絵を決めたらすぐに織り始められるわけではないらしい。経糸の準備とはどんなことをするのだろう。
 束の間、村人達に囲まれる緊張感を忘れユニカはわくわくと胸を躍らせる。
 すると女達の世間話に戻っていたトエラが、ふと思い出したように顔を上げた。
「ねぇ、そういえばロヴェリーさんがキルルを呼びに行ったんじゃなかった? 今日は来ないのかしら」
「キルルにお祭の準備を手伝う気なんてあるんだか。それより聞いた? あの子、マクダだけじゃなくてイヴァ・ピーアのお店からも専属の職人にならないか誘われてるんですってよ」
「えーっ! 貴族のお店じゃない、どうしてそんなところからお呼びがかかるの!?」

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