天槍のユニカ



ある少女の懺悔−魔風−(8)

 アヒムは呼吸の度に大きく上下するキルルの背中をさすりながら、情けなさでつかえそうになる言葉を絞り出した。
 アヒムの意地がキルルの命を危険にさらしたようなものだ。村の一人ひとりを気にかけてやらねばならなかったこんな時に、アヒムはキルルに対する扉を閉じたままだった。
 扉を閉ざされたキルルがアヒムの何を頼れるだろう。まして、これまでほとんどなんの垣根もなくアヒムと過ごしていた彼女に、その門扉をこじ開ける勇気などあろうはずがない。
 しかし、きっとキルルと同じくらいに、アヒムも一度閉ざしたものを開く勇気がなかった。
 頑固だとか融通がきかないとか言われるが、実は自分を変える勇気が足りないだけだ。自分の言葉を貫き通す方がアヒムにとっては楽なのだ。
 アヒムは、どんなことも、誰のことも懐に迎え入れるクレスツェンツを通して、そんな己の姿を知った。
 だから変わろうと思っていたのに、自分はまだまだこんなものだ。
 アヒムは身体を強張らせるキルルの頬と枕の合間に手を差し入れ、少々強引に彼女の顔を上向かせた。
「だめっ……!」
 それを振り払おうとするキルルの手を掴み、ようやく現れた幼馴染の顔をまっすぐに覗き込む。
 白い肌と頬から首にかけて残る火傷の痕。赤子の頃に負ったその傷痕の上には、目許にのぞいていたのと同じ赤い発疹がぽつぽつと点在していた。
 発疹が首筋にまで及んでいることを確かめたアヒムは、思わず唇を噛んだ。
「触っちゃだめだったら!」
 キルルはその些細な表情の変化を目敏く見つけ、渾身の力を振り絞ってアヒムの手を引き剥がした。そして再び枕に顔を押しつけ、堪えきれずに嗚咽をもらし始める。
「キルル……ごめんね。一人で、怖かっただろう……」
 アヒムは震える背中にそっと掌を乗せた。
 身体も熱い。いつからこんな熱があるのだろう。長引けばキルルの体力が奪われる。まずはこの熱を下げてやらなくては。
 キルルは、もうアヒムの手を振り払おうとはしなかった。アヒムの言葉に頷いたり返事をしたりすることもなかったが、呻くように泣きながら背中をさすらせてくれる。
「ロヴェリーさん、キルルに手を触れましたか?」

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