天槍のユニカ



昔語りの門(7)

 もちろん、ユニカは僧侶や尼僧達の慶事の衣装に使って貰えばいいと思ってレースを編んできた。しかしそれは信心からではなく、暇つぶしに編んでいるとどんどん出来ていくからというのが一番の理由だった。そして需要がありそうなところへの伝手がエリーアス、つまり教会だったというだけの話。
 そんな手慰みの品物を、大導主の法衣に。
 光栄だと思えるほどユニカはおめでたく考えられないし、多分それで正解だろう。
 ゆえにパウルの隣で沈黙していたところ、向かいの長椅子に座っていたヘルミーネから鋭く睨まれていることに気づいた。
 何か言わなくてはいけないらしい。でも、なんと言えば?
 たじろぐだけのユニカから視線を外し、ヘルミーネは明るく社交的な笑みを浮かべる。
「――猊下の位階ともなれば、百合の紋をあしらわなくてはいけないのではありませんか?」
「さすがはエルツェ公爵夫人。よくご存知でいらっしゃる」
 彼女は「恐れ入ります」と会釈をしたのち、またもぴりぴりとした目つきに戻る。
 しかしそこまで言われればさしものユニカにも言うべきことが分かった。
「あの、それでは百合の意匠を編んで導主様に差し上げます」
「おお、それは嬉しいことです。ならば次の冬も風邪を引かないように乗り切らねばなりませんね」
 パウルとヘルミーネ、それからエリュゼはこの約束に満足してくれたようだが、カイの視線はますます冷たくなった。
 いったいどうすればいいのだ、もう。
 顔をしかめながら温んできたお茶をすすると、パウルが小さく苦笑するのが聞こえた。
「いかがでしょう、ユニカ様。そのお茶を飲み終えたら少し散策に出ませんか。グレディ大教会堂は街のように大きな施設です。見ものですよ」
「……はい」
 頷きながらも、ユニカはパウルの提案を不可解に思う。彼はあまり足腰の状態がよくないようなのに。
 しかし杖があればそれなりに歩けるらしい。ユニカがカップを空にするのを見届けると、彼はよいしょと声に出しながら立ち上がる。
「では参りましょう。ユニカ様」
 手を差し出されると、ユニカはそれを受けないわけにはいかなかった。むしろユニカがこの手を取って支えてあげねばならない気がする。

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