くれ惑い、ゆき迷い(13)
そんな彼女をせめて勇気づけられるように、この屋敷へ来る前に先日の詫びをして隣にいてやれるようにしようと思っていたのに。
(なんだかな……)
ますます、ユニカに不快にさせてしまっただけだ。
養父の話など持ち出さず、トルイユに対する憎しみなど持ち出さず、ただ君を愛しているから嫉妬してしまったのだと言って心をくすぐることはいくらでも出来るはずなのに。
なぜそうしなかったのか自分でも解せなかった。アレシュの顔が脳裏にちらついて冷静になれないのだとは、認めたくない。
エルツェの兄弟は、表情を曇らせる王太子を見上げながら少々戸惑い始める。ディルクははたと我に返り、兄弟と、彼らの後ろに佇んでいたエリュゼに椅子を勧めた。
「それで、エリュゼを交えて私に相談したいこととはなんなのでしょう? 息子達もお話を聞いてもよろしいのですか?」
「ええ、公の後を継ぐのはカイでしょうし、カイを補佐していくのは弟のアルフの大切な役目です。二人がどう思うか、参考までに意見を聞きたい」
少年達は王太子に見込まれているのを素直に喜び、公爵とエリュゼはあからさまに顔を曇らせた。
「それはそれは。さぞ重大なお話なのでしょうね。跡目の息子達にも関わる話だとすれば……」
ユニカが屋敷を訪問した時に、折り入って相談が。ディルクからそう伝えられた公爵は、てっきりここ数日火の粉を撒き散らしたように広がっている二人の噂を、これを機に事実にしたいとでも言われることを想像していたのだろう。彼にはユニカを妃に迎えたい旨は伝えてあるから。
しかし次世代を担う息子達、そしてエリュゼが絡むとなればその想像が間違いであったと気がついたはず。またエリュゼも、単にこの場に呼ばれただけでなく、自分が当事者であることに勘づいたようだ。
二人とも具体的な想像は出来てもいまいが、一族の当主とその跡継ぎ、そしてエルツェ家の門葉であるプラネルト伯爵が呼び出される案件といえば、家や爵位に関わることに決まっている。
「大変重大な話ですし、公にしかご相談出来ないことです」
「前置きをなくしてずばりおっしゃっていただきたい。どういったご用件です? ちなみに、承れるかどうかは約束出来ませんが」
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