天槍のユニカ



雨がやむとき(17)

 どうやらこの腸詰めのにおいらしい。刺激臭に鼻が慣れてくると、今度は干した肉独特の臭みが漂ってきて、ユニカは思わず鼻と口を覆う。
「おやおや、奥様はお気に召さないようだ」
 ディルクが声をかけるより早く、ぶら下がる腸詰めの奥でナイフを振るっていた店主が顔を顰めるユニカに気づいて呵々と笑った。
 誰が奥様だ、と反論する余裕はユニカにはない。
「本当だ。早いところ出ないといけないな。知人がこの店のサラミをご馳走してくれたんだ。美味かったからまた食べたいと思って探しに来たんだが、どんなものが置いてあるかな」
「それはそれは、わざわざおいでくださったとはありがたいことで。どれ、お味見なさってください。当店で一番人気のサラミはこちらです」
 店主はにこやかに応えながら、彼の近くに垂れ下がっていたロープを引っ張る。するとぶら下がる腸詰めの一部が歯車の回る音とともに動いた。
 ディルクはその仕掛けに感心しながら店の奥へ入っていってしまって、必然、ユニカもついて行くことになった。
 店主は腸詰めの一つを千切り、持っていたナイフで薄く切って差し出してきた。喜んで受け取るディルク。彼を横目に見ていたユニカにも一枚ご馳走してくれるらしい。
「この間食べたものとは違うけど、美味いな」
 ユニカがそれを食べようかやめておこうかと悩んでいる内に、ディルクは隣で機嫌よく驚きの表情を浮かべている。
「こちらもいかがでしょう」
 彼はすすめられた二つ目のサラミも実に美味しそうに食べているので、ユニカも恐る恐る手の内にあるものをかじってみた。が、
「……っ!」
 噛んだ途端に舌が痺れるような辛さが襲ってきた。そして鼻から抜けるハーブのきつい香り。
 それ以上噛むことも吐き出すことも出来ずに固まるユニカを見て笑うのだから、店主は愛想がよくてもなかなかひどいやつだ。きっと最初から嫌な顔をして店に入ってきたことを根に持っているに違いない。
 店の奥から「口直しに」と持ってきてくれたのも葡萄酒だったので、ユニカは渋面のまま店を出ることになった。ディルクは、結局味見した二つの腸詰めを買っていた。
「そんなに辛かったかな」

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