雨がやむとき(6)
最後の宴のあと、街へ出かけて買ってきたという駄菓子や、魔除けになるらしい怪しげな猫の置物がレオノーレから届けられたりした。多分、そのお出かけ≠フ時に見つけた食べ物をまた召し上がりたかったのだ。
しかし、ディルクからも許可を貰ってしまったカミルが悲愴感の漂う顔で馬車の横を通り過ぎていくのを見た時、ユニカは再び嫌な予感に駆られた。
ディルクが許した。些細なわがままだから、買いものを許可した方が早く先へ進めると判断したのだろうか。
それとも、レオノーレの企みはまだ終わっていない……? もちろんディルクも協力者で――
「さ、見張りの目はなくなったわよ。行ってらっしゃい」
「え?」
レオノーレが満面の笑みで言った瞬間、馬車の中にざっと冷気が吹き込んできた。外から扉が開け放たれたのだ。
「行くぜ。上着は目立つから置いてけよ」
扉に手をかけているのはルウェルだ。彼は近衛騎士であることを示す深紅のマントをレオノーレに向かって放り投げた。
その後ろにいたもう一人の人物も濃青のマントを外し、きらびやかな上着も脱ぎ捨てる。ディルクだった。
「ほら、あなたも脱いで」
ディルクのマントと上着も受け取ったレオノーレが、何が起こるのか分からずに目を瞬かせるユニカの襟元に手をかける。
「もう、伯爵も手伝って! 急がなきゃカミルが戻ってきちゃうでしょ!」
ユニカは反射的に抵抗したが、レオノーレはほとんど引き千切るように外套の留め具を外した。しかも、丁寧な手つきながらもエリュゼがそれを脱がせようとするのでまさかと思う。
ユニカはあっという間に外套を剥ぎ取られ、更にはレオノーレに力一杯突き飛ばされた。
わけも分からぬまま座席から落ちる。雪の残る道に身体を投げ出す羽目になるかと思ったが、冷たさも痛みも感じなかった。ディルクに抱き留められたのだ。
「それじゃあ、四時に打ち合わせた場所で合流よ」
「了解」
手を振るレオノーレにルウェルが応える。それより早く、ユニカの身体を降ろしたディルクは彼女の手を引いたまま走り出す。
- 636 -
[しおりをはさむ]