雨がやむとき(2)
着替えを済ませたユニカが再び迎賓館のエントランスに姿を見せると、そこではレオノーレとエリュゼが待ち構えていた。
エルツェ公爵家の門閥、プラネルト伯爵家の当主であるエリュゼはユニカの介添え役として同行するが、レオノーレが一緒に来るのはまったくもって謎だった。本人曰く、親友だからついて行くとのこと。
レオノーレを止められないことは分かっていたし、己の身の振り方に投げやりになっていたユニカはそれについて何も意見を言わなかった。
「久しぶりねユニカ。ちょっと靴を見せて」
久しぶり、とユニカが返す間もなくずかずかと歩み寄ってきたレオノーレは、ためらいもなくユニカのドレスの裾をまくり上げようとする。
「公女さま、人目がございますので……!」
ふんわりした薄絹のドレープをひっつかんだレオノーレだったが、飛びつく勢いでそれを制したエリュゼを見、彼女らの背後に控える警護の騎士達を見て「ふむ」と頷きながらその手を引いた。
「それもそうね。馬車の中で確認すればいいものね。今日は雨だし、ちょっと心配で」
いったい何を? そして雨がどうしたというのだろう?
ユニカは赤くなりながら、めくられかけたドレスの形を整えてくれるエリュゼに視線で問うてみる。すると苦笑いが返ってきた。
エリュゼだって苦笑するしかないか……。悲しいかな、レオノーレの唐突で思うがままの行動には誰だってそうするしかない。
「じゃあ出発しましょう。ディルク達が外で濡れながら待ってるわ」
ユニカはきゅっと唇を噛んだ。
彼に会うのは、あれ以来初めてだ。
エントランスに置かれた大きな柱時計が正午の鐘を鳴らす。それに続くように王城のあちこちで時報の鐘が鳴り始めた。
出発の時刻だった。
優美な装飾で飾られた扉が開け放たれると、迎賓館の前には小雨に濡れる十二名の近衛騎士と侍官、ユニカ達が移動に使う輿、そして一行の指揮を執る王太子が待ち構えていた。
ディルクはすでに馬上にあり、まだ冷たい雨にしっとりと髪を湿らせながら静かな目でユニカ達を見下ろしてくる。
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