天槍のユニカ



不協和音(12)

「初めまして、エリーアス伝師。ウゼロ大公エッカルトの娘、レオノーレと申します。ユニカとわたくしは親友なのよ。エリーアス伝師はユニカとどういったお知り合いなの?」
 態度に似合わない恭しい言葉遣いで騎士姫が微笑むので、エリーアスは仕方なく彼女の手に口づけて、公爵夫人と同じ挨拶をしてやった。そしてうつむいたついでに思いっきり顔を顰める。
 親友? やっぱりこの娘は変だ。何か勘違いしているのだろう。ユニカがこんなにぎらぎらした女と親しく出来るわけがない。余計な情報は与えない方がよさそうだ。
「お話しするほどのことはありません。ただ古い知己で。ご挨拶出来て光栄です、公女殿下」
 エリーアスは素っ気なくそう答えた。レオノーレにとっては不十分な回答だったのだろう。気の強そうな吊りぎみの目がひくりと細められる。
 とはいえ、エリーアスはそれ以上レオノーレを相手にする気はなかった。
「実は、ユニカが公爵家のお屋敷へ行く機会に、グレディ大教会堂へ立ち寄って我が師に会って貰う約束をしているのですが、今日はその話を詰めておきたいと思いまして」
「そうでしたの。初耳ですわ」
「夫人にはお知らせしておりませんでした。急な話となり申し訳ないのですが、そのようにお取りはからい下さいますように」
「ユニカ様が導主さまとお会いになることはよいことだと思います。夫に相談しておきましょう」
 亡き王妃を通して知り合っていたとはいえ、この貴婦人と一対一で話をするのは初めてだった。もちろん個人的に頼みごとをするのも。しかしクレスツェンツが言っていた通り、この夫人がエルツェ公爵を御すことの出来る常識人≠ナあることは確かなようだ。上級貴族の女性らしいたおやかな眼差しの奥に、ものごとをきちんと観察して判断する聡明さと芯の強さを感じる。
 そして彼女はクレスツェンツの最後の願い――ユニカを施療院の指導者にするという願いを知っている仲間の一人だ。ユニカを導主の許へ、すなわち教会へという提案を、ユニカと施療院に接点を持たせる好機とみたのだろう。
 これなら偏屈屋のエルツェ公爵がなんと言おうと、エリーアスやパウル、ついでにクレスツェンツの思いも成就しそうだ。
「ところで、肝心のユニカはどこに?」
「王太子殿下とご一緒でしょう。広間の東側にいらっしゃるかと」
「そうですか、ありがとうございます。大教会堂へ来て頂く日程のことは、公爵家やユニカの都合を優先して調整して頂けますか。明後日にでも弟子を遣わしますので、その者に詳細をお言伝下さい」
「承りましたわ」
 エリーアスと夫人はお互いに通じ合ったものがあることを感じつつ、笑みを交わし合った。
 それが済むと、エリーアスは一つ深いお辞儀をし、その場を立ち去ろうとした。無論、ユニカの許へ行くためだ。王太子と一緒にいるだなんて冗談じゃない。早く迎えに行ってやらないと。

- 611 -


[しおりをはさむ]