家族の事情(14)
公爵の言葉にレオノーレは納得出来ないらしい。彼に注ぐ視線は変わらず冷たかった。
「それで……公妃さまは御子をお産みになったのですよね……?」
ハーブティーに手をつける余裕もないまま聞いていたエリュゼが、恐る恐る言った。貴族社会に埋もれたとんでもない秘密を握らされようとしていることに気づきながらも、ここまで聞いたからには続きが気になって仕方ないようだ。
ユニカも居住まいを正してレオノーレの方へ耳を傾ける。
そう、話はまだ終わっていない。
「ええ。例え父親が騎士であっても、王女の子なら間違いなく王家の血を引いているわ。当時、国王に即位したばかりの陛下には御子がいらっしゃらないばかりかお妃を亡くされていたから、王女の産む子供は第一位の王位継承権を持つことになる。堕(お)ろさせることなんて出来なかった」
ハイデマリーの懐妊が発覚し、その相手が公子ではないことが判明したあと、王家と大公家の間では秘密裏に協議が行われた。
シヴィロ王国とウゼロ公国。
王家と大公家。
ともに歴史を歩む一対の翼。
「あたしたちは離れられない。だから当時の大人たちは全部秘密にすると決めたのよ。巡るべきときが巡ったあと、ハイデマリー王女は無事に男児を出産したわ。生まれた男児は、王女と公子の第一子として大公家の系譜に名を刻まれた」
蜜の糸のような金の髪。青にも緑にも見える湖水のような色の瞳。
レオノーレの口から語られたハイデマリーを飾る言葉が、ユニカの中で別の青年の容姿へと当てはまる。
そうなのか。そういうことだったのか。彼やレオノーレが口にする不可解な言葉のいくつかが意味を持ち、鈍い痛みとともにユニカの胸に落ちて収まった。
すでに答えを知ったユニカを見つめて、レオノーレは低く呟く。隠されていた残酷な解答の内の一つを。
「それがディルクよ」
燭台の蝋燭が一本燃え尽き、芯が倒れるのと同時に柔らかな闇が領地を広げた。
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