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家族の事情(10)
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コンパニオン――儀礼上の伴侶。未婚の王族男子に仕える飾りの女のことだ。社交の場に出るようになった王族男子が妃を迎えるまで、その代役を務める特殊な女官≠ニいえばいいだろう。
その役割はあくまで妃の代理であり、男子が妃を迎えると同時に役目を解かれ……そのまま愛妾の座に納まることが多い。
「ヴィルマは父さまのエスピオナとなるために育てられていたけれど、本人にその才能がなかったし、年頃になった父さまもすっかり異性としてヴィルマのことを気に入ってしまって、名目上はコンパニオンとして、事実上は恋人として傍におくことにしたらしいわ」
当時公子だったエッカルトは、自分がシヴィロ王家の姫を娶らなくてはいけないことを知っていた。その姫君に先んじてほかの女を妻に迎えることが出来ないことも。
ゆえにヴィルマのことは、王女との婚姻が結ばれ、しばらくしたあとに正式に側室として迎えるつもりでいた。
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ハイデマリーがウゼロ公国の都・テドッツに降り立ったのは、その年の春のことだった。
爽やかな初夏の匂いを含み始めた風に蜜の糸の髪をなびかせ、姫君はあどけない顔を上げる。
彼女と王国使節を迎えに出た公国の高位の貴族たち、そしてエッカルトは、このときのハイデマリーの美しさに息を呑んだ。
心細げで悲しげで、故国から離れた不安を青緑の瞳一杯にたたえた少女。それを見て庇護欲と同時に後ろ暗い支配欲を掻き立てられた者も多かっただろう。心に決めた女がいるエッカルトさえそうだった。
人を虜にする魔性の美――エッカルトが、人々に愛され尽くした幼く美しい姫君に抱いた最初の印象は、こうだった。
未来の花嫁は大公が選んだ高位貴族の貴婦人たちに守られながらハンネローレ城へと入った。
そんな彼女に付き従う影が二つ。片方はまだ小さな少年で、もう片方は自分よりいくつか歳下に見える若い騎士だ。
「彼らは?」
「小姓の少年と、王女殿下の乳母君のご子息でもある騎士だとか」
王国から嫁いでくる彼女が公国へ持ち込むことを許されるのは、人も、ものも、すべてが最小限。そんな厳しい掟がある中、彼女はこれまで自分を世話していた侍女は一人も連れてこなかったという。
代わりに彼女が傍におくことを選んだのが、あの少年と騎士らしい。
侍従に尋ねると、彼はわずかに眉を顰めてそう答えた。気持ちは分からないでもない。輿入れに男を連れてくるとは……。
しかし、先ほどの馬車を降りたばかりの王女の悲しげな顔を思い出すと、致し方ない気もした。
彼女が侍女以上に心のよりどころに出来ると判断したのが、あの子供と、幼馴染みといえるであろう乳母の息子である。それだけの話だ。
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