天槍のユニカ



見つけるために(7)

「お静かに! ウゼロ公国使節代表、レオノーレ殿下、並びにドナート伯爵閣下のご挨拶です!」
 たまらず官吏が叫んだが、まだ大広間は静まらない。公国からの使者たちは、それでも構わずに席を立った。
 彼らに興味を示している者はほとんどいなかっただろう。けれど彼らは、とりわけ先を歩く公女は、舞台の上で全観衆の視線を集めているかのように堂々と玉座の前に進み出る。
 青ざめ、彼女が近くへやってきたことになど気づいてもいないユニカにちらりと視線を送ってから、公女は優雅に頭を垂れた。
「謹んで、」
 そして、凜とよく通る声が響く。
「国王陛下、並びに王家の皆様方に、新年のご挨拶を申し上げます」
 決して声を張ったわけでも叫んだわけでもない。女にしてはやや低めの声が、貴族たちのざわめきを切り裂くように大広間の隅々へ行き渡る。
 ようやく口を噤む貴族たちを背景に、公女はゆっくりと顔を上げた。
 我に返ったユニカは、彼女にじっと見つめられていることに気づいた。
 燃えるような朱金の髪を、金のビーズが連なった飾りでまとめている公女の姿は、祝いの席に相応しく華やかだった。装いだけではない。少し吊り気味の大きな目が派手な印象を与える顔立ちで、強い感情のこもった彼女の瞳は、王でもなく王太子でもなく、ユニカだけを映していた。



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「ユニカ? 女神ユーニキアの『ユニカ』のことかしら。仰々しい名前ね」
「殿下、もう少し声を抑えませんと」
「聞こえやしないわ。見なさいよ、あんなに震えて。見苦しいったらないわ」
 玉座にほど近い公国使節の席で、レオノーレは金糸をふんだんに編み込んだ臙脂色の扇子を広げ、その陰からユニカの様子を観察していた。
 跪いているのもいい加減疲れた。こんなに締まりのない儀式ならなおさらだ。
 王の両隣へそれぞれ戻っていく王太子と王家の養女を見送ってから、ようやく衆人たちにも着席が許された。
 ディルクは堂々としたものだが、片やユニカの方は今にも泣き出しそうな顔をしている。見ているレオノーレの方がいらいらしてしまうほど情けない。
 王家に囲われているからには、高慢ちきで人を見下すような女かと思っていたが、その想像も完璧に裏切られた。つまらない。
 それにしても珍しいことがあるものだ。ユニカと兄を交互に見遣りながら、レオノーレは自分の名が呼ばれるのを待つ。
 王族席に現れたユニカを、ディルクが迎えるなんて。あれは、どういう意図のある行動だったのだろうか。

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