天槍のユニカ



見つけるために(1)

第一話 見つけるために


 夜が明け切らぬ内に身体を清め、ユニカは純白の衣裳に袖を通した。用意されていたのは建国時代の、コルセットで身体を締め付けないゆったりとしたドレスだ。
 何重にも絹を重ねてあるドレスはずっしりと重い。長く引きずる裾は気にしなくて良いと言う。ユニカが歩くときは、侍女のリータとフラレイ、ディディエンが、三人がかりで裾を持ってついてくる。
 緊張した面持ちで彼女たちが向かったのは、王家の冠を収めた廟だった。今日はそこを守る衛士たちがおらず、代わりに王と王太子が待ち構えていた。
 彼らもユニカと同じ白いローブに身を包み、ユニカの到着を待っていたようだ。他には侍従長を含め二人の侍官が付き添っているのみで、人払いがされたあとである。
 半分が雪に埋もれた廟の扉は開いており、中には既に明かりが灯っていた。王は黙ってその中へ降りていく。彼とともに廟へ立ち入ることが許されるのは王族のみなので、ユニカのドレスの裾を持っていた侍女たちは、そっと彼女の傍を離れた。
 王と王太子の背中に続いて、ユニカも廟の階段を一歩降る。すると前を行くディルクが唐突に振り返った。
「足許が暗い。手を貸そう」
「え?」
「その衣装じゃ尚更よく見えないだろう?」
 何気なく差し出された手を見て、ユニカはどきまぎしながら目を逸らす。そして左手をきつく握りしめた。
 中指にはクレスツェンツの遺した王家の指輪を、人差し指にはディルクに渡された指輪を無くさないようにと着けてあった。
 求婚の返事を、元日の朝に。
 そう言ったことを、まさか彼は覚えていないのだろうか?
 そう疑ってしまうほどディルクの表情はいつも通りだ。てっきり返事を急かしてくるものと思っていたが……。
 それより、彼がこんな様子ではいつ指輪を返せばいいのか分からない。このあと城内にある礼拝堂で神々に祈りを捧げる際、王家の身分を証すために指輪が必要だったはずだ。
「どうした? 手を」
 断ろうと思ったが、ユニカは自分の足許を見て言葉に詰まった。爪先も隠れるような裾と暗さもあいまって、次の一段がよく見えない。
 仕方なく、白い手套に包まれたディルクの指先に自分の手を委ねる。凍てつく朝の空気の中で、その手はじんわりと温かい。軽く握るようにして手を引かれ、ユニカは一歩ずつ階段を探り降りていく。
「白い衣装、よく似合うよ」
 あと一段。ゆっくりと足先で着地点を探っていたユニカの耳許で、不意にディルクが囁いた。途端に足を下ろすべき段を踏み外してしまう。小さく悲鳴を上げた彼女の腰を抱え、ディルクがくすりと笑う気配がした。
 祭壇の前で王がこちらを振り返っていることに気づき、ユニカはぐっと抗議の言葉を呑み込んで、ディルクを睨むことしか出来ない。当の彼は涼しい顔でユニカを助け起こし、今までと同じように彼女の手を引いて祭壇まで導く。

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