天槍のユニカ



幕間2(5)

「何言ってるのよ。エイルリヒが蔑ろにされるってことは、あたしも同じ目に遭うってことでしょう。延いては公国も蔑ろにされるわ。だからはっきりさせなくちゃならないのよ」
 愛らしさが失われたケーキがまたしても姉の口の中へ豪快に放り込まれ、エイルリヒは我慢ならなくなった。王への抗議などもうどうでもよい。
「あの、僕のおやつなんですけど! そんなにがつがつしないでもっと味わって下さいよ!」
「味わってるわよ、美味しい美味しい」
「だったらぐちゃぐちゃにしないで下さい! せっかく可愛く飾り付けされてるのに、なんで潰しちゃうんですか!?」
「えぇ? 女の子みたいなこと言うのねエイルリヒ。こんなの口に入れば一緒でしょ。それよりお前はもっとお肉を食べなさい。本当にひょろひょろねぇ。剣なんて持てるの?」
「も、持てます!」
「そうそう、話は変わるんだけどね」
 弟の返答にはなから興味の無かったレオノーレは、マティアスにお茶のお代わりを注がせると、それで口に溜まった甘ったるさを喉の奥へと流しこむ。
 小腹も満たされて満足した彼女は、肘掛けにもたれ掛かりながらはらりと扇を開いて微笑んだ。
「ベルネット伯爵が今朝、屋敷の階段を踏み外して大怪我をしたそうなのよ。だからシヴィロへの新年参賀の使節代表は、あたしが務めることになったわ」
 それを伝えに来たの、と言うレオノーレを穴が空くほど見つめてから、エイルリヒは絶叫した。



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 なぜ弟があれほど抵抗したのか分からないが、父やシュテルン公爵を交えて四人で協議した結果、レオノーレが使節の代表を務めることに変更はなされなかった。
 エイルリヒにも内密にされていたらしいが、レオノーレが新年参賀の使節とともにシヴィロ王国へ行くことは、もともと決まっていたのだ。だからバルタスに仲間たちを残して、彼女は戻って来た。
 都へ帰った二日後に、彼女はテドッツを発った。もう少し城でゆっくり過ごしたかったものだが、新年の参賀に公国使節が遅れるわけにはいかない。そして恐れていた通り降雪のために多少強行な旅程となり、さすがのレオノーレも、王都アマリアへ到着した頃には疲労困憊していた。
「ディルクもこんな感じだったのかしら……」
 寝不足のせいで、目の奥がずんと重い。
 使節の一行は王都の関門・グレディ大教会堂で礼拝と導主達への挨拶を済ませ、再び馬車に乗った。このとき、レオノーレの馬車には一人の騎士が同乗した。

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