天槍のユニカ



幕間2(3)

「そうね、新しく三十人の騎士を育てるのにかかる時間と金を思えば、勿体ないわ。でも、王家にディルクが入ることになったのは良いことだと思うわよ。その補佐だと思えばいいんでしょう? 騎士の三十人くらいどうってことない程の見返りが期待出来るもの」
 マティアスが淹れてくれたお茶を片手に、レオノーレはまるで「薔薇の蕾を見つけたの」とでも言うように、優雅に微笑んだ。
「ディルクが王家にいれば、いずれシヴィロは親トルイユの政策を転換するはずだわ。騎士の三十人どころじゃない、援軍が来るわよ、東からね」
「……」
 エイルリヒは姉の言葉に返事もしなければ、頷き返すことも無かった。
 当然のことと思って口にしたのだが、弟の反応が薄い。不満なレオノーレは乱暴にカップを置いた。
「なぁに? そういうつもりでクヴェン王子を殺してディルクを王家に送り込んだんじゃないの?」
「はっ!? 違いますよ!! クヴェン王子は落馬事故……なんの疑惑も感じないわけじゃありませんけど、僕らは何もしてません。バレたら王家と戦争ですよ? 兵の練度はこちらが上でも、食糧供給をシヴィロに頼っているところが多いから、その輸出を止められたらあっという間に兵も民も養えなくなります。それこそトルイユのいずれかの貴族連合と手を組まなきゃね」
「トルイユと手を組む? あり得ないわ!」
 長年の宿敵に剣を突き立てるかのように、レオノーレは一口大のケーキに真上からフォークを刺した。白いクリームで覆われ、シロップ漬けのベリーが乗っていたケーキだ。食べたい、と狙っていたエイルリヒは唇を尖らせる。
「だからそう言ってるでしょう、姉上。大公家が一番仲良くしておかなきゃならないのはシヴィロ王家です。王子を暗殺したりしません」
「ふうーん? でも、ディルクが公国寄りの政策を取ってくれることに期待はしたいわよね。シヴィロさえその気になってくれれば、貴族の連携がばらばらな上に形だけの王家しか無いトルイユなんて、一年もかけずに地図上から消してやれるわ」
 レオノーレは大口を開けてケーキを頬張る。はみ出たクリームを指で拭って舐める様子は大変行儀が悪く、他の令嬢が見れば蒼白になる粗陋な仕草だったが、豪快で彼女に似合っていた。
「そう言えばディルクは元気だった? 手紙を書いても全然返事をくれなかったのよ。たまにあたしが都へ帰っても会ってくれないし。実はディルクが死んだのを皆で隠してるんじゃないかとも思ったんだけど、シヴィロへ行ったっていう話はさすがに嘘じゃないわよね」
「はぁ、まぁ、元気でしょう、多分……」
 姉の口の中に消えたケーキを思い、エイルリヒの声はしょんぼりと萎む。そんな様子を、レオノーレは違う理由によるものだと考えた。
「シヴィロまでの道中、長かったでしょ? さすがに一言も喋らないなんてことはなかったわよね?」

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