天槍のユニカ



幕間1(6)

 国政に矛盾はつきもの。けれど敵の返り血を浴び、仲間の屍を抱えて凱旋する気持ちを知る者にとって、その矛盾は堪らないものだった。
 シヴィロ王国とウゼロ公国の間に、亀裂が生じるのは当然の流れだ。
 王国で、それも王都という安全な場所で生まれ育ったカミルには想像もつなかい世界なのだろう。ディルクは知らずの内に眉間に皺を寄せていた。
「ああ、そう言えば!」
 惚けて見えるが、何か察することはあったらしい。カミルは突然明るい声を上げた。
「公国からいらっしゃる使節の代表が、変更になったと報せがありましたね」
「そうだったか?」
「はい。早馬で、一昨日」
 資料は渡したはずだが、とカミルは不安げに眦を引き下げる。
「誰だったかな。きちんと確認しなかった、すまない」
 予定では、ウゼロ公国の副外相が正使のはずだった。ディルクが公国にいた頃もあまり接点のなかった人物である。相手をするのが難しそうだなと思いつつ、彼の食べ物や酒、女の好みなど調べてあったのに、すべて台無しというわけだ。
 しかも使節の到着は明日。準備のしようが無い。
 お手上げだと思ったところ、カミルが口にしたのはまったく予想に反した名前だった。
「公女レオノーレ様ですよ。殿下は妹君と仲がよろしかったそうで、あっ、如何なさいましたか!?」
 半ば諦めて啜ったお茶で、ディルクは噎せ返った。
「――レオだと!? 誰だあいつを選んだのは、エイルリヒが許したのか!?」
 咳き込みながらもまくし立てる主に、カミルはおろおろと困惑するしかない。彼が公女を使節の代表に立てたわけではないのだから、事情など分かるはずがなかった。
「何かいけない事情でもおありですか? 皆、騎士姫にお目にかかれると喜んでおりますよ」
「あいつに外交官など務まるわけがない。あいつに出来るのは宣戦布告だけだ」
 カミルの戸惑う顔を見ていくらか冷静になったディルクは、口許を拭いながら唸った。
 日頃から女王のように振る舞う彼女は、かつてともに出撃したバルタス鉱山の戦で、敵の総司令官を挑発にのせ、見事その全軍をディルクが望むタイミングで動かしたほど相手を逆上させるのが上手い。
 彼女が公の場で好き勝手に立ち回るのも勘弁して貰いたいが、ユニカに目をつけられては更に厄介だ。
 しかし彼女とユニカの接触を防ぐ手立てなど思いつくはずがない。ユニカは現在王族の身分を持ち、それ故否が応でも使節の前に姿を見せねばならない。
 ディルクはテーブルに突っ伏したい気分で、レオノーレの出立を阻めなかったエイルリヒを恨んだ。



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