天槍のユニカ



幕間1(4)

 そこへ現れた本物のエリュゼは、すっかり貴族らしい装いが馴染んできている。念入りに化粧をして耳元と首筋、髪にも宝石を着けているので、以前よりずっと大人っぽくなって見えるが、ディディエンとそっくりなのは間違いない。
「本日も予定がたくさんあります。まずは朝食をお召し上がり下さい。ディディエンをご紹介いたしますわ」
 侍女ではなく伯爵という立場になったエリュゼは、ユニカと食事を共にすることも許されるようになった。
 もとはといえば、西の宮へ毎日やって来たエルツェ公爵が昼食を摂るために内郭を出るのは面倒くさい、ユニカに招待して貰ったことにしてここで食事を摂ると言い出したのが始まりだが、朝からユニカのところへやって来るエリュゼには、一緒に朝食をとってもよいと言ってある。
 まだこそばゆい感じがするけれど、人と食事をすることに慣れねばならないと公爵に言われたのだから仕方が無い。まずはエリュゼと対等に向かい合って座ることに慣れねば、他の誰とも同じテーブルに着くのは無理だろう。
 不本意だが、練習、練習。エリュゼは初歩の初歩だ。
 ユニカがそんなことを思いながら二人でテーブルにつくと、エリュゼは早速ディディエンを傍に呼んだ。
「年が明けてもしばらく慌ただしさが続きます。リータとフラレイだけでは身の回りのお世話に心許なさがありますので、今日から新しい侍女を連れて参りました。これはまだ十四ですが、一昨年から迎賓館で侍官の見習いをしておりましたので、少しは使い物になるでしょう」
「そう。それで、あなたたちはもしかして」
 並んだ二人を見れば一目瞭然だった。エリュゼと、ディディエンこと小さなエリュゼは互いに顔を見合わせる。
「そんなに似ていますか?」
 エリュゼは苦笑し、ディディエンははにかんだ笑顔を浮かべた。そして、改めて自己紹介するよう命じられると、ディディエンは一歩後ろへ下がってドレスの裾を持ち上げ、優雅に会釈する。
「ディディエン・プラネルトと申します」
 新しくやって来た幼い侍女は、何故か多大な憧れをこめた眼差しをユニカに向けてきた。


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 一方、同じ朝を迎えたディルクも、今日からプラネルト伯爵の妹がユニカのもとに伺候することは把握していた。
 迎賓館に勤めている妹を引き抜いて、ユニカの傍に仕えさせたい、とエリュゼが相談してきたのは十日ほど前。これから城内で最も忙しくなる場所の一つが迎賓館で、ディルクが許可を出した後も、責任者の侍官やツェーザルはディディエンが抜けることを相当渋ったようだ。

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