天槍のユニカ



幕間1(3)

 そう考えて、新年に教会へ奉納する刺繍布を取りに来て欲しいと手紙を書いたところ、やって来たのは彼の弟子の少年僧だった。エリーアスも、パウル導主のお伴で忙しいそうだ。
 あの日以来、もともと乗り気でなかったダンスや所作の授業には更に集中出来なくなり、そんなユニカに対し、エルツェ公爵もかんかんだった。初めはぶちぶちと文句を垂れ、やがて数度はユニカを叱責したが、それでも彼女が自分の殻から出てこないことを悟ると、飽きたのか諦めたのか、ここ数日西の宮には現れていない。
 公爵の脚が遠のいても、エリュゼは毎朝顔を見せてくれた。消沈しているユニカの様子には気づいているのだろうが、努めていつも通りに接してくれている。
 遠慮がちなノックのあと、そのエリュゼが顔を覗かせる。ユニカが起きていることを認めた彼女はぱっと満面の笑みを浮かべ――ん? とユニカは首を傾げた。
「おはようございます」
「お、おはよう……」
 挨拶を返せば、彼女はもう一度お辞儀をして、リスのような素早さでベッドの傍まで駆け寄ってきた。毛布と布団をどけ、ユニカを着替えさせるため衣装部屋へと連れて行く。
「リータさん、リータさん!」
 そしてはたと何かに気づき、ユニカを置き去りにして出て行った。寒い衣装部屋で肩をさすり、ユニカは開け放されたままの扉を見つめて考える。
 今のは、誰だろうか。
 顔はエリュゼだったが、エリュゼではない。
 やがてリータを連れて戻ってきた彼女は、どのチェストに何がしまってあるのか分からなかったらしい。ついでに洗面用の水も忘れていたようだ。ユニカが顔を洗うのを手伝うと、リータに教わりながら下着やドレスを取り出してきて並べ、どれを着るかとユニカに問うてくる。
 そうして靴とアクセサリーまで選び、着替えを終えてようやく、ユニカは疑問を口に出来た。
「あなた、誰?」
 何が楽しいのか分からないが、とにかく楽しそうにユニカの寝間着を畳んでいた彼女は、大きく目を瞠りながら顔を上げた。
「え?」
「え、って、それは私の台詞よ」
 きつい口調で言ったつもりはなかったのだが、彼女はみるみるうちに青ざめ、畳んでいる途中だった寝間着を放り出して立ち上がる。
「ディディエンと申します!」
「ディディエン?」
「ディディとお呼び下さい!」
 そう言って勢いよく頭を垂れた。すると大きく揺れる金髪は、そのゆるい巻き癖までもがエリュゼにそっくりだ。ただ彼女よりもずっと小柄なその少女は、恐らくもう一人の侍女、フラレイと同じ年頃だろう。
「何を騒いでいるのディディ。ユニカ様、申し訳ございません」

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