天槍のユニカ



『娘』の真偽(6)

「すぐにとはどれくらいのことかしら」
「針が刺さったくらいなら、瞬く間に」
 フラレイは警戒しながらも、問われればぽろぽろと答える。
 兄弟はユニカの枕元にたたずみながら侍女たちのやり取りを聞いて口の端をにたりと持ち上げた。
「しかしフラレイ、ティアナには医学の知識がある。とりあえず傷を診(み)て貰おう。君にもこの人がどれくらいの回復力を持っているかはっきりとは分からないのだろう?」
「はい」
「医官の手配は、我々からはしない。しかし傷の状態を追って陛下にお知らせすることも出来る。彼女に任せてもいいね?」
「……はい」
 ディルクの撫でるような声音はフラレイを充分に安心させたらしい。言葉も彼女に不利を感じさせないものだった。畳み掛けるようにエイルリヒがフラレイの手を取り、寝室を出るように促す。
「ティアナ、頼む」
 兄弟とフラレイが退出するのを見送ったあと、ティアナは衣装部屋へ入った。裁縫箱がどこかに置いてあるはずだ。
 難なくそれを見つけ出すと裁ち鋏を取り出し、寝台に横たわるユニカを見下ろす。
 ユニカが着ているのは、淡い水色の地に白い大柄の薔薇が描かれた、清楚だが目を引く美しいドレスだ。無惨にも血に染まり、もう着ることは出来ないだろう。
 もったいないし申し訳ないとは思ったが、ティアナはユニカの襟元に鋏を宛がうと一気にドレスを切り裂いていった。
 慎重にユニカの身体を裏返しながら、下着類もすべてはぎ取り、血で汚れた傷の周りを拭う。するとユニカは初めて呻き声をあげた。
「申し訳ございません。傷の様子を見せていただきますね」
 なるだけそっと傷の周りを綺麗にし、胸と腹、静かに身体を転がして腰の傷口を確認して、ティアナは眉を顰めた。
 どの傷も出血が止まっていることが分かった。まだ濡れてはいるがとても刺されたばかりの傷口には見えない。
「本当に……」
 国王秘蔵の『天槍の娘』。ティアナも噂はよく知っていた。でも噂に過ぎないと思っていた。様々な謂われにも何かからくりがあるだけなのだと。

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