閉じる嘘の空(1)
第六話 閉じる嘘の空
ユニカは髪を翻してディルクを振り返った。不快感をあらわに彼を睨むが、相手に気にした様子は無い。
「どういう意図で私を呼んだのですか」
「カードに書いた通りだよ。天気がいいから一緒に温室で昼食をと」
「初めから陛下を呼んでいらしたの?」
「時間が取れるようならとお願いしていた。食事のついでに確かめたいことがあったんだ」
座って、と促されるが、ユニカは動けなかった。彼女を避け、王は素知らぬ顔で席に着く。
ここで一人だけ感情的になっているのは馬鹿みたいだ。そう思ったが、ユニカは握りしめた拳に力がこもっていくのを自分ではどうしようもなかった。
いつもなら、王の顔を見たって淡々としていられる。彼はユニカに殺されてくれると約束した。だから何も焦ることはないし、憎しみを晴らすのはやがて来る“その時”でいい。それなのに――
「ユニカ、座ってくれ。陛下もゆっくり食事をしていく時間は無いそうだ。ひとつふたつ、確認事項があるだけだよ。君にも聞いて貰いたい」
態とらしく感じるほどのディルクの微笑に、いらいらと胸の奥が疼く。ああ、分かった、苛立っているのは彼のせいだ。
「天気がいいから」などと言ってユニカを誘い出したのは、もしかしなくてもこの三人の席を設けるためだ。のこのこと誘われやって来た自分が腹立たしい。何か意図があるのかも、なんて、いつもなら考えつくはずなのに。何の理由も無く、それこそ「天気がいいから」という他愛の無い理由で食事に誘ってくれる相手など、王城の中にいるはずがない。
「すぐに済む話なら、私は立ったままで結構です」
「君にとって大切な話だ。座って、陛下のお話を聞いた方が良い」
ディルクのその言葉には、ユニカだけでなく王も怪訝そうに眉を顰めた。
そんな二人のもとへ、王のためのお茶をティアナが運んできた。ついでに彼女もやんわりとユニカに着席を促す。うまいもので、そこに立たれていては軽食を運ぶのに差し支えるという顔をして。養父という一つの繋がりを持ってしまった彼女にそんな顔をされては、頑なに断ることも出来ない。
「まずはひとつめ。人払いをして陛下にお会いする機会が無く、お見せするのが遅くなってしまいました」
ユニカがベンチの端に腰を下ろすのを見届けると、ディルクは懐から白いハンカチに包まれたものを取り出してテーブルの真ん中に置いた。ゆっくりと布をどければ、中から現れたのは禍々しい形の刃物だ。鳥の嘴のように緩い弧を描いた、分厚いナイフ。エスピオナが用いる“爪”だ。
ユニカは息を呑んだ。これは地下牢の中でユニカを刺した、あの“爪”に違いない。
「そうだよユニカ。毒は洗い落としてあるから触れても平気だ」
頬を引き攣らせた彼女に気づき、ディルクは宥めるような優しい声で言った。そしてわずかに目を細めた王をきっと見据える。
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