天槍のユニカ



『娘』の真偽(5)

 普通の人間なら失血によってとっくに死んでいるような状態で、この娘は生きている。それは、この娘が本物≠セという証だった。
 兄弟の前をゆくフラレイが遠慮がちに振り返った。
 まだディルクたちに送り届けられることに迷いがあるらしく、時々ああして様子を窺ってくる。
 その覗き見の間隔がだんだん短くなってきたと思ったら、彼女はいよいよ歩みを止めた。
「ユニカ様のお部屋です」
 西の宮の奥まったところまで来たな、と思ったら当然のこと。ユニカは宮の中でも南の端にある部屋を住まいにしていた。陽当たりが考慮された一等の部屋とはまた別の、隅っこの部屋だ。それでも前室、主室、寝室、衣装部屋、侍女たちの控えの部屋がそろっている。
 調度品も一流だ。滑らかな艶のある木製の家具、白で統一された布製品。床に敷かれた絨毯の藍色は北にあるマルクエール王国特産の毛織物である証。
 部屋を一見すれば、ユニカが受けている扱いは王族のものだった。
 ディルクは寝室に通され、ユニカを寝台に寝かせる。
 ティアナとフラレイはテリエナを別室へ運び、またすぐに戻ってきた。
「フラレイさん、本当にお手当は必要ないの? 傷を縫うならわたくしにも出来ます。今からでも道具を取りに行きますわ」
「傷を縫ったりしたら、きっと大変な事になります」
「どうして?」
「どうしてって……」
 ティアナは知っているはずだ、とフラレイは目で訴えかけるが、ティアナはまるで気づかないふりで瞳を潤ませる侍女を見つめ返した。
 ユニカの噂は、城に勤める者ならたいてい聞いたことがあるはずだ。
 天槍を招き操る力があるとか、病や怪我を癒す力があり、王がそれに執着しているらしいとか、ユニカ自身が不死らしいとか。憶測の域を出ないが、これらの噂は広く囁かれていた。
「ユニカ様はすぐに傷がふさがる方なので、傷を縫ったりしたら糸がとれなくなってしまいます」

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