天槍のユニカ



『娘』の真偽(3)

「い、いけません!」
 同僚を抱え起こしていたフラレイが、突然うわずった声でティアナの言葉を遮った。一身に注目を浴びて気まずそうにしながらも、彼女はぼそぼそと続ける。
「ユニカ様に何かあった時は、まず陛下にお知らせする決まりです。医官の手配が必要なら陛下がなさいます。だから……」
「何を言っているのあなたは、この血の量が見えないの。手当が先に決まっています!」
「いいえ! 陛下にお知らせするだけです! 医官を宮へ入れないでくださいませ! これは陛下がお決めになったことでございます!」
 半ば悲鳴のような声ではあったが、フラレイの拒否はきっぱりとしていた。西の宮の掟を持ち出されては東の宮でディルクに仕えるティアナは反論できない。彼女は指示を求めて主を見上げる。
「では、まずは陛下にお知らせするとして、この方はどこへお連れするのがいいのだろうか。このまま雪の上に寝かせておくわけにもいくまい」
 フラレイは返事に詰まった。今更、ディルクがユニカを抱えていることのまずさに気がついたのだ。
 彼らがユニカを抱えたまま西の宮へ来る? 冗談ではない。しかし相談できる同僚はのびてしまっているし、自分一人ではユニカもテリエナも運べない……。
「一緒に部屋へ運んであげます。案内してくれますか?」
「え、はい、いえ、あの」
 エイルリヒは同僚を抱えるフラレイの手に自分の手を重ねて囁いた。息を呑んで身体を強張らせる娘を宥めるように、彼は少し首を傾げて屈託無く微笑む。
「西の宮に入られると不都合なのは、僕らもなんとなく知っています。でも詳しくは知りません。そしてこれだけの大騒ぎを目撃してしまいました。城内での刃傷沙汰です。事情がよく分からないから、このままだと公にして捜査するしかないんですよね。兄上や僕、まだ滞在しているウゼロの使節にに危害が及んだら大変です。誰が捜査のために動くのかなぁ。近衛隊長あたりが直接指揮してくれるかも知れませんね。だけどあまり大事になると陛下がお困りになるのでは? 城内での傷害事件を放置は出来ないけれど、君たち西の宮の者を表に出すのはちょっと……ね? まぁ詳しい事情は分からずに言っていることなんですが」
 フラレイは、目の前にある公子の青い瞳を見つめながら震えだした。そして順々に、ディルクやティアナの顔を窺っていく。

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