天槍のユニカ



小鳥の羽ばたき(7)

 どうしてあんなに偉そうなのだろう、同じ侍女のくせに、と叱られる度に思っていたものだが、エリュゼの正体が国王の直臣とあらばちょっと納得がいく。むしろ今まで散々口応えをしたり馴れ馴れしくしてきたことについて何も言わないでくれるなら、感謝しなくては。
 叩頭するフラレイを見て少しだけ口元を綻ばせると、エリュゼはすぐに公爵の後を追おうとした。
「あっ、エリュ、伯爵さま!」
「……なんです?」
「テリエナは、いつ出仕してきますか? 宿舎にも戻っていないので……まだ実家のお屋敷にいるんでしょうか。ユニカ様が東の宮にいらっしゃること、知らないだろうから……まだ戻ってこられないのなら、手紙を出そうと思って」
 ユニカの部屋がめちゃくちゃにされるという事件があってからは、フラレイもばたばたと忙しくなり、すっかり彼女のことを忘れかけていた。休暇は三日だと聞いていたが戻ってこないのは、おおかた風邪でも引いたからだろう。心配していることや、今ユニカの周りが大変な騒ぎでちょっと面白い、ということを書いて、手紙でも出してあげよう。そう思ってフラレイは言ったが、エリュゼは何故か眉間に皺を寄せた。
「テリエナは地方領へ下がることになったわ。ユニカ様が西の宮へお戻りになるまで、しばらくはリータと二人で、エミやクリスタから侍女の仕事をきちんと習いなさい。すぐに新しい同僚を紹介しましょう」
「えっ!?」
 どういうことかと問い返したかったが、エリュゼはざっと音を立てて乱暴にドレスの裾を翻し、早足で公爵の背を追いかけて行った。フラレイはしばし呆然としながら、エリュゼの言葉を反芻する。
 地方へ、ということは、侍官職も返上することになるだろう。風邪どころではなく、もっと悪い病気にでもなったのだろうか。ユニカのところへやってきた時期も同じ、年も近かったので、テリエナとは一番仲良くやっていたつもりだったのだが、仕事を辞めることも教えて貰えないとは……。よっぽど具合が悪くて手紙も書けなかったのかも知れない、とは思っておくが、やはり寂しかった。
 うなだれ、それでもお別れの手紙くらいは送ってあげようと思いつつ、フラレイはとぼとぼとユニカの部屋へ戻った。
「気持ちが変わったらいつでも言え、ってことだ」
 耳慣れない男の声に、フラレイは部屋へ入る前にはっとなって表情を引き締めた。そう言えばもう一人、正確には付き人を伴っていたのでもう二人、客がいたのだった。
 若いが位の高そうな僧侶である。ユニカとの関係は全然知らない。親しそうだなというのは二人の雰囲気から伝わってくるが、会話の内容は聞こえたり聞こえなかったりなので詳しいことは分からなかった。
「止めやしない……でも、それ以外の道を考えてもいいんじゃないかって、お前よりは大人な俺から言っておくな。いくらでも付き合ってやる。城の外にユニカが歩きたいと思う道があるなら」

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