天槍のユニカ



いてはならぬ者(17)

「納得できない。伯爵に尋ねろ。絶対に何か知っている」
「命令しないでくださいよ。訊いてみようかなって言ってるじゃないですか」
「どうして最初からすべてを語らなかったのか、その理由もだ。でないと疑心暗鬼になる。お互いのためにも、今後はこうしたことがないようによく伝えておけ」
「……はいはい。そんなにいらいらしなくてもいいのに。甘いものを食べると落ち着くんですよ。ほら、特別にもう一個食べてもいいですから」
 そう言って、エイルリヒはタルトレットをフォークに刺しディルクの鼻先に突き出してきた。
 しばらく横目でそれを睨んでいたディルクだが、やがて気怠げにそれを受け取りもそもそと食べ始める。チーズとレモンのよい匂いがして美味しいが、エイルリヒほど甘いものが好きなわけではないので、さほどありがたくはなかった。
「失礼だなぁ。せっかくあげたんですから、もっと美味しそうに食べてください」
 ディルクは返事をせず、指先についたくずを舐める。
「陛下と娘の関係も巧く掴めないな」
「万能薬にもなる愛人のつもりなんでしょう」
「誰に聞いたんだ?」
「僕の想像です」
 そんな単純なものか、とは口に出さないでおく。
 王は、娘を庇護しながらも娘を避けているというのがディルクの想像だ。
 ティアナの情報によると、二人は時折この温室で会うことがあるらしい。お互いに距離を置き淡々と近況について話すだけだという。会談はいつもほんの十分で終わる。
 そして、王は娘に絶えず贈りものを寄越しているようだが、自ら西の宮へ足を運んだことは、この八年あまりで数回だけ。
 もともと王は国政に生きているような気質で、昔から女絡みの醜聞はほとんどない人だった。そんな彼が妃に迎えた女性は二人。
 一人目の正妃が子を産むことなく亡くなり、二人目に迎えた妃がクレスツェンツで、彼女との間にようやく生まれた王子が先月死んだクヴェン王子である。側室もおらず、クレスツェンツが亡くなってから王はずっと独り身だ。
 そんな王が今更若い愛妾を望むとも思えなかった。もちろん、彼が求めているのは娘のもたらす血の力であれば、娘を城に留め置いている理由はそれで充分である。しかし娘に対する厚遇は度を超している気がした。

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