繋いだ虚ろの手(1)
第7話 繋いだ虚ろの手
エリーアスがユニカの養父であるアヒムと出会ったのは十歳の時だ。
エリーアスもまた、ビーレ領邦にある村の導師の息子だった。導師の子供達は、十歳を超えると各領邦を代表する教会堂、ビーレ領邦でいえばペシラの教会堂に集められ、冬から春にかけて寄宿舎で生活を共にしながら国教の担い手となるべく教理を学び始める。エリーアスもその習わしから逃げることが出来なかった。
そこで、彼は自分と瓜二つの少年に出くわした。初めはお互いに気味悪がっていたものだが、彼らの師であり、今はエリーアスが仕えている導主パウルから二人は母方の従兄弟であると教えられた。
父方であるグラウン家の近しい親族のことはよく家族の話題に上るが、母方の親族についてはあまり知らなかったエリーアスだ。それはアヒムも同じだったらしい。
アヒムはブレイ村の導師の一人息子。特に地方の村々では導師職を世襲に頼る傾向があるので、アヒムは将来、村の導師職を継がねばならない。一方エリーアスには兄がいた。継げる教会堂はない。このまま教会の中で役職を得ようとしてもせいぜい使い走り役のような伝師になれるかどうかだ。それならばさっさと商売や農業の勉強をした方がいい。
そういう温度差のある二人だったが、まるで鏡を見ているようなお互いの存在に惹かれ合ったのは間違いない。
アヒムに引っ張られるまま、エリーアスはグラウン家の一員として教会に残った。結局伝師という役職を得、王国の南部を中心に方々を渡り歩きながらも、アヒムとの交流は絶えなかった。彼は友人であり、兄も同然だ。
エリーアスは何度もブレイ村を訪れていた。アヒムと王妃との手紙のやり取りを仲介したのも、多くがエリーアスだ。
アヒムがユニカを引き取った頃の様子も知っている。それからの二年間、二人がどんなに幸せな家族であったのかも。
ただ、その最後だけを知らない。
ユニカは決してエリーアスによりかかろうとしてくれない。八年前に喪ったものを理解し合える仲のはずなのに。
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