天槍のユニカ



いてはならぬ者(7)

 リータはすぐ近くにあるディルクの体温にうっとりと酔いながら、心の中では高笑いが止まらなかった。

     * * *

「何を心配していたのか知りませんが、兄上は逢い引きに温室を使っただけですよ。暖かいし、ここは王家の庭でしょう? 誰も来ないはずですから」
 別の四阿にもお茶が用意されていた。エイルリヒは席に着き、テーブルに鎮座する山のようなお菓子を眺めて舌なめずりをする。
「逢い引きですか……まずいのでは。まだ殿下は王家にいらしたばかりで、そういう浮いた話が早々に出てくるのはどうかと思います」
「何を言っているんですか。兄上をいくつだと思っているんです? 二十一ですよ。妃候補になりえる恋人や愛人の一人二人三人いてもおかしくありません。今回の相手はシャスハト男爵の娘でしたっけ。商人上がりでも貴族なら、相手にしても問題ないでしょう」
「シャスハト男爵……まさかリータ殿ですか!? ティアナ、どうして殿下に会わせたりするんです!」
 突然非難されても、ティアナは涼しい顔で焼き菓子を皿の上に取り分けている。
「エイルリヒ様、お約束通りわたくしが作って参りました。お口に合うとよいのですけれど」
「美味しいに決まってます。それじゃあさっそく」
「今日は特別に、カミルにもあげるわ」
 テーブルの傍で呆然と立ち尽くすカミルの前にも、ケーキの乗った皿が差し出された。恨めしげにそれをくれたティアナを睨むが、彼女はついと顔を反らしただけで堪えた様子などなかった。
「お口に合いまして?」
「はい、とても美味しいです。想像していた通りの味です」
「よかった。作ってきた甲斐があります」
 やけに親しげなエイルリヒとティアナの様子を怪訝に思いつつ、カミルは大人しくなってケーキをつついた。ティアナの作る菓子はクヴェン王子に相伴する形で何度か食べたことがあるが、無視できないほど美味しいのだ。

- 24 -


[しおりをはさむ]