天槍のユニカ



王城の表裏(9)

「分かっている。あとはあの方に委ねよう。お前は早く城を出ろ。王太子がお前を疑っていたなら手が回っているかも知れん」
「いいえ、これが作戦に反することだとは分かっています、でも私は、どうしても――」
 剣の柄に手を掛けるローデリヒを、ヴィクセルが抑え込む。
「だめだ。魔女からあの騎士が離れない」
「あの騎士?」
「王太子付きの、あいつだ」


 
 人の話し声がする。
 うとうとしかけていたルウェルは我に返った。まずい、これは「寝たら死ぬぞ」な感じの眠気な気がする。
 無理もない。マントを敷物代わりにしているとはいえ、もう一時間以上凍りついた石床の上に座っているのだ。なかなかきつい。冷たさのあまり腰がじんじんしてきた。
 そう思うと、鍛え抜かれた兵士でもない若い娘が同じ状況で大した防寒着も着ずに平然としているのを見ると、感心を通り越してとても驚いた。
 いや、平然としてはいないかも知れない。
 近衛騎士達にここへ連行されたユニカは進んで牢の奥へ入って行き、隅っこに陣取ると、入り口に背を向けて座ったきり膝を抱えたままそこから動かなくなった。
 抵抗しないものだから近衛兵たちも拍子抜けしていたほどである。
「おーい、死んでねぇよなぁ」
 ルウェルが声をかけると彼女はかすかに震えた。もしかすると寒さに耐えかねてうとうとしていたのかも。
「なぁー、無言じゃお互いつまんねぇしさ。多分ディルクもすぐ助けに来てくれると思うし。もうちょっとこっち来てなんか喋ってようぜ」
「……」
「つーか、いくらあんたが『天槍の娘』とやらでやばいことやらかしたにしても、女にこの待遇っつーのは、俺ちょっと許せねぇな。女子供には優しくしろって、結構口うるさく教えられてきたからさ。意外に紳士だろ、俺」
「……」
 続けて無視されると、ルウェルも一旦は諦めるようになった。むすっとしつつも溜め息をついただけで彼は立ち上がる。

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