いてはならぬ者(5)
「悪いが人を待たせているんだ」
「え?」
カミルをやんわりと退け、ディルクは再び歩き始めた。エイルリヒもふんっと鼻を鳴らして兄に続く。
「ですが、陛下のおおせで、」
「お前が叱られるようなことにはしないよ」
「いいえ、そういうことを心配しているのではなくて」
「では、何を案じている?」
立ち止まって振り返ったディルクの眼差しは、口許の笑みに反して冷ややかだ。
「それは、私からは……」
口籠もるカミルを見て、兄弟はちらりと視線を交わした。互いにうっすらと笑ったように見える。そしてやはり西の区画へ向かうようだ。
更に二人を制止しようとしたカミルはマティアスに突然腕を掴まれた。そのまま引きずられるようにして主たちの後ろをついていくしかない。
やがて温室に着こうというとき、カミルはまた驚き目を瞠った。
硝子張りの扉を開けて彼らを迎えたのは、カミルと同じ――元クヴェン王子付きで今はディルクの侍女をしている、部下のティアナだったのだ。
「待たせております、殿下」
ディルクは頷くと、彼女に導かれるまま温室へと入って行った。
中央にある四阿はせせらぎの上に建てられており、蔓薔薇が美しく絡んでいる。その中で小柄な人影が立ち上がった。ティアナは彼女とディルクに目配せすると、優雅に叩頭して主の前を退いた。
あの娘≠ナないようなのでほっとするものの、カミルは落ち着かず主の背を見送り、そしてすぐ後悔する。
「僕らはあっちで待ちましょう」
真っ赤になって硬直するカミルをマティアスに引きずらせ、エイルリヒはティアナの案内で別の四阿へ向かった。
同じ女官職にあるティアナから呼び出され、リータはユニカの傍を喜んで抜け出してきた。
ユニカときたらウゼロ公国の一団が到着したあの翌日から部屋に籠もりきりで、本を読むかレースを編んでいるかの毎日だ。見ているこっちの目が疲れる。
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