天槍のユニカ



剣の策動(15)

(なんて無駄なの……)
 「そこまでしなくてもいい」と声を掛けてよいものか。何せ彼女らはお世継ぎの侍女だ。ユニカが命令しても構わないのかが分からなかった。
 そんなことを気にしながら本を読んでいる内に、またもやぬるくなったお茶がさげられ、新しいカップが登場した。
 お茶を運んでくれた黒髪の侍女と目が合い、にこりと微笑まれたのでユニカは反射的にお辞儀をする。やり取りは無言で、お茶もお菓子も替えなくていい、とは言えないまま。
 さすがにもったいなくなってきたので、ユニカは本を置いて、くるみの乗ったクッキーを一つ口に入れてみた。
 美味しい。けれど、後ろから感じる視線が居たたまれない。
 ユニカのそんな状況を救う者はほどなくして現れた。
 西の宮からユニカの着替え諸々を抱えてやって来たエリュゼとフラレイだ。
「お待たせいたしました。さぁ、まずはお着替えを」
 ずいぶん待たされたのは事実だが、一応急いで来てくれたのだろう。ティアナと三人で大荷物を抱えて来た侍女達はわずかに息を乱しているほどだ。
 ディルクの侍女達もすぐさま行動に移り、素早く主の衣装部屋から衝立を移動してくる。
 エリュゼはその陰にユニカを押し込むと、有無をいわさず寸法違いなガウンを脱がせいつもの肌着を着せていく。
 慣れた手つきで着替えをすすめるエリュゼを、ユニカはじっと見つめた。
 ディルクが王冠の廟へやって来たのは、ユニカがいるであろう場所をエリュゼに聞いたからだと言っていた。
「エリュゼ」
「はい」
 コルセットの紐をぎゅっと締めながら、彼女は返事をする。手を休めたりはしない。
「どうして私の居場所を知っていたの?」
「ティアナ様が西の宮へ知らせに来てくださいましたので。お衣装がまだ片付いておりませんでしたから、傷みのないドレスを探すのに手間取り遅くなってしまいました。申し訳ございません」
 エリュゼの力はわずかに緩んだが、返答は滑らかだった。しかしそれはユニカが求めていた答えではない。

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