天槍のユニカ



いてはならぬ者(2)

 口を押さえて頷きながら、フラレイとテリエナはドレスや洗面具を取りに方々へ散った。
 ユニカは王からのカードと銀の皿を手に持って、一人化粧台の前に座る。カードを銀皿に置いて、ユニカはそれを見つめながら自分で髪を梳き始めた。
 彼女の視線の先で、何かがぱちっと音を立て弾ける。ほとばしった青い光がカードの上に散り、やがて生まれた小さな火がカードを呑み込んでいった。

     * * *

 連日の夜更かしのせいか、カミルの新しい主は疲れているようだった。
 主はどんなに前日の就寝が遅かろうと定刻に起き、午前中はシヴィロ王国の国法を勉強している。午後には各役所の高官のもとへ挨拶に行き、夕方から支度をして、今日も誰だったかの屋敷で行われる夜会に招待されていた。あれ、誰の招待だっただろうか。
 ディルクの予定を把握し管理するのが侍従であるカミルの仕事だった。予定は全部手帳に書いてある。しかし手帳がない。
「手帳を探しているなら、ここにあるが」
 ポケットというポケットを引っ張り出していたカミルはびくりと跳ね上がって振り返った。主が机の隅をペンで指し示しながら呆れて笑っている。
「二時間前からそこにある」
「申し訳ありません!」
 今朝、一日の予定をディルクと確認したときそこに置いたのだ。途中でディルクに贈りものが届いたので、慌てて対応に出てそのまま……自分の懐にしまった覚えがない。
「なくさないように気をつけなさい」
「はい……」
 カミルはしゅんと項垂れながら手帳を懐にしまい入れた。反省することに頭がいっぱいで、夜会に招待してくれた相手の確認をすっかり忘れ。
 お詫びの気持ちを込めて、彼はディルクの手許で冷めていたお茶を淹れ直しにかかる。
 カミルの悄然とした後ろ姿を見て思わず笑いを漏らしてから、ディルクは再び法典と注釈書に視線を落とした。
 クヴェン王子の死は突然で、ディルクがシヴィロ王家に入ることになったのもまた、急な話だった。

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