天槍のユニカ



矛先(1)

第1話 矛先


 王太子が近衛長官に叙任される四日前のこと。
 新しく近衛に入隊した騎士は注目の的だった。
 『王太子付き』の肩書きを与えられながら兵舎の相部屋に放り込まれたせいもある。しかしそれ以前に、彼の名は一夜にして近衛隊全員の知るところとなっていた。
 彼は公妃ハイデマリーに仕えていた騎士であり、この度の公子の王家入りにともなってウゼロ公国から異動してきた。しかも、エルメンヒルデ城の門を単騎で破るという非常識な方法で。
 そんなルウェルと相部屋になったのは、ローデリヒという若い騎士だ。
 彼は兵舎の使い方を案内したあと、城の外郭にある調練場や馬場へもルウェルを連れて行った。
「馬ねぇ。用意しねーとなぁ。なんたって俺たち騎℃mだからね」
「城にいらした時の馬はどうしました?」
「借りものだった上に矢が刺さっちゃってさ。ディルクに金借りて弁償した。軍馬でもないのになかなか勇敢な奴だった……」
「はぁ、なるほど」
 誰の前であろうと、ルウェルは王太子を呼び捨てにしている。これにはどんな反応を示してよいのか分からないローデリヒである。
 どうやら彼らは世間でいう幼馴染みにあたるらしく、王太子自身がルウェルの馴れ馴れしい態度を強く咎めないのだ。それをほかの騎士が注意するというのもおかしい気がして、誰もが苦笑して流していた。
 ローデリヒは、厩に並ぶ騎士たちの愛馬を物色、もとい眺めるルウェルのあとをついて回った。
「ディルクにまた金を無心するのは心苦しいなー。特別いい馬じゃなくても、乗れりゃなんでもいいんだけどさ、俺今ほとんど文無しだもん。馬は買えないよ、馬は」
 騎士の装備は、馬を含め自分で維持するのが基本だ。それゆえ、それなりの領地収入がある貴族しか騎士にはなれない。領地を持たないルウェルが公国で騎士に任ぜられたのは、公妃という後ろ盾がいたからだ。
「でしたら、私の馬はどうです? こちらです」

- 195 -


[しおりをはさむ]