レセプション(11)
ユニカは顔を上げないまま眉を顰めた。バレていたか。
リータの不愉快そうな声もまた面倒くさかった。公子に相手にされなかったのが面白くなく、それを折悪しく送り出したユニカのせいだと思っている節がある。
「そう」
この素っ気ない反応が相手の神経を逆撫ですることはよく分かっていたが、だからといって「残念だったわね」と同情したつもりで言おうものなら、それこそ彼女の逆鱗に触れる。同僚の視線もいたたまれないようだったので、ユニカはリータをさがらせた。
そろそろ昼食の時間だが、すっかり食欲は失せていた。
(陛下に謝罪しなくては……公子さまに姿を見せてしまったこと……)
王には仇もあるが恩もある。貸しも借りもある。持ちつ持たれつ≠フ相手に迷惑をかけるのは不本意だ。そして新しく迎える世継ぎにユニカのことを無視するようよく言い含めて欲しいと、念を入れて頼んでおきたかった。
王に会えるとしたら、彼が就寝する前のわずかな時間。
『今晩、お会いしたく存じます』
ユニカはそれだけ書いた便箋を畳み、一角獣の紋章で封蝋を閉じた。
待ち合わせの時間と場所は決まっている。そしてこの紋章で閉じられた手紙は、間にチェックを挟むことなく直接王へ届けられる約束だ。あとは会えるのか会えないのか、王からの返信を待つのみだ。
「昼食はいらないわ。少し眠るから、あなたたちもさがって」
寝椅子から動くのも気怠かったが、ユニカはどうにか立ち上がってふらふらと寝室に向かった。
夕方になって起き出した彼女は、多忙のため今夜は会えないという王の返信を受け取ってわずかに落胆した。
* * *
「見ましたか、陛下のあの目つき。僕を見るのと兄上を見るのとであまりにも温度差がありませんでしたか? 陛下と血が繋がっていなくても、僕は父上の代理として兄上に付き添ってきたんですよ? 義弟の代理ですよ? 大公の代理ですよ? 信じられない、あんなにあからさまな差別をするなんて。……くそじじぃめ」
王に拝謁し、昼食を終え、もうじき始まる儀礼に備えてディルクとエイルリヒは控えの間にいた。ディルクは爪でテーブルを叩きながら式次第の確認をし、喚いているエイルリヒを無視している。しかし最後の一言は聞き捨てならない。
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