幕間−3−(2)
その守護が終わる時が来たのだ。真っ向から、自分と大公の関係を見つめなくてはいけない時が。
「殿下は、戦が恐ろしくてこうなってしまうわけではありませんのね」
ディルクの告白からそう思ったのか、スザネは長椅子のそばに膝をついたまま、まるで自分の痛みを堪えるような声で言った。
「戦も怖かったよ。あそこにいた時より、思い出す方が何倍も怖いし」
とはいえ、スザネが言うことの方が的を射ている。
ディルクが本当に恐れているのは、成人した自分が大公にとって本格的に目障りな存在になっていくこと、それゆえに彼の敵意が増すことなのだろう。
「スザネは、家に戻りたいとは思わない?」
自ら家を出てきたという少女は、一応父に認められていたという。父親を頼らなかったのだろうか? その関係に未練はないのか?
少しの羨ましさを含んだディルクの問いに、スザネの表情が一瞬、くしゃりと歪んだ。
父を頼れたなら、伯爵家での生活を捨てるような真似をしなくてよかっただろう。遅れて気づいたディルクは後悔したものの、うつむいてしまった少女に謝る一瞬の機会を逃してしまう。
塞がりかけた傷を突かれるような問いに少なからず傷ついただろうに、それでも、スザネは間をおかずにディルクを見上げ、笑って見せた。
「レオノーレ様や女公爵がここにいてもよいとおっしゃってくださいますもの。レオノーレ様と一緒にお勉強をしてもいいし、チェスももっと強くなってもいいと」
レオノーレの様子を見るに、スザネを気に入っていることはよくわかった。グリーエネラ女公爵も未婚ゆえ実子はおらず、女だてらに大公の軍を任されている女傑であるからこそ、自らの意志で生きる道を探すために家を飛び出してきたスザネの行動を買っていることだろう。
あの二人に受け入れられたのなら、なるほどスザネがまた心を強く持とうと思えるのは至極当然のことだった。そして、それはきっと彼女が自分で掴んだ幸運でもあった。
「ですから――」
スザネは膝の上できゅっとスカートを握りしめる。笑みを浮かべながらも涙の膜に濡れた瞳でまっすぐにディルクを射ぬいた。
「いいではありませんか。たとえ大公殿下とうまくいかなくても。そういう親子だって世の中にはおります……多分、わたくしたちのほかにも。それに殿下にも、殿下のことを好きだとおっしゃってくださる方がたくさんいらっしゃるのですから。レオノーレ様も、女公爵も、テナ侯爵夫人も、テナ家のほかの方々も……。だったら、殿下は大丈夫ですわ」
- 1426 -
[しおりをはさむ]