幕間−3−(1)
幕間―3―
母が大公以外の男と契って自分が生まれたことは知っている。それゆえ大公に疎まれていることもわかっている。
しかし、こうなった責任は、ディルク自身には一片たりともないはずだった。
だから疎まれていると知りながらも、彼の役に立つ人間になれば少しは認めてもらえると期待していたのかもしれない。
それが虚しい望みだとわからせてくれたのがこの左肩のけがだ。
本来、君主の子が初陣で前線に投入される必要などなかった。ましてディルクはまだ見習いだ。敵の前に出てどれほどの戦果があげられることか。
にも関わらず最前線での参戦を命じられた。総指揮官であった養父でさえ逆らえないような圧力がかかっていたのだと思う。
大公が、この戦いでディルクが命を落としても構わないと考えたからこそ。
――どうあっても受け入れられることはない。そのことへの絶望感がこうして自分を立ち上がれなくさせている。
ディルクは目を覆ったまま唇を噛んだ。
「お水をいただいて参りましょうか。それか、先日お飲みになっていたお茶を」
「いや、大丈夫。もう大丈夫だ」
スザネの声色も辛そうだったので、まだ収まらない吐き気を堪えながら起き上がった。スザネが差し出してくれたハンカチで汗とも涙ともつかないものをぬぐう。
「……俺も、」
そうして白絹のハンカチを握りしめながら、なぜか声を絞り出していた。
「大公とは、あまりうまくいっていないんだ」
口にして認めるとこんなにも苦々しい。
ディルクは生まれてすぐにテナ侯爵家に引き取られたので、大公と暮らしたことは一日たりともない。もしかすると生まれた時に抱かれもしなかったのかも。
しかし、養父母となったテナ侯爵夫妻はどこまでもディルクを愛しんで守ってくれた。
それゆえ父から自分に向けられる冷たい視線のことは知らないふりをできた。養父母と同じように家族として接してくれたルウェル、クリスティアン、レオノーレも、事情を知っているがゆえに、大公からディルクを切り離した居場所となってくれていたと思う。
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