幕間−2−(2)
ルウェルやクリスティアンは、こんなことにならないはずだ。
弱い自分への情けなさと悔しさを吐き出し切ったものの、起き上がれなかった。そのままうずくまっていると、遠くからさくさくと芝を踏む音が聞こえた。
「ディルク!」
這いつくばったディルクを見つけたレオノーレが叫び、樹上に遊んでいた鳥たちが驚いていっせいに飛び立った。慌てた羽音と一緒にいくらか羽毛が散り落ちてくる。
「大丈夫!? また気分が悪いの? スザネ、居間へ連れて行くから誰か呼んできて」
「なんともない。大丈夫だ」
「なんともない人間は真っ青になってゲロ吐いたりしないのよ」
「お前、どこでそんな汚い言葉を覚えてくるんだ」
「もう、いいから掴まって。おっと、左は痛いんだったわね」
レオノーレに肩を担がれて歩きだすとまた情けなくなったが、手足が震えていうことを聞かないのだからなす術がない。
そのまま居間の長椅子まで運ばれ横になっていると、先ほどレオノーレに命じられて人を呼びに行った少女が養母ユスティエナとテナ家の医師を連れてきた。
テドッツへ戻ってからというもの、ディルクは度々こうした発作を起こして倒れているが、薬でどうにかなるものではないそうだ。とにかくゆったりと休養すること、そのうちに恐ろしい記憶も消化できる、と医師は言う。
今日も気持ちを落ち着けるハーブティーを出されただけだったが、養母が手ずから渡してくれたカップを両手で包み香りをかいでいると、確かに気分はよくなった。
ディルクの顔に血の気が戻るのを確かめ、ユスティエナはディルクの頭を撫でて額に口づけ、何も言わずに立ち去った。落ち着いたあとは放っておいて欲しいというディルクの気持ちをくんでくれてのことだ。
一方のレオノーレはというと、長椅子のそばに椅子を引っ張ってきて居座る様子である。
ディルクが帰還してからというもの、三日と間を空けずにレオノーレは見舞いにきていた。ひたすらくっちゃべって帰ることもあれば、食欲がないディルクのために差し入れを持ってきたり、散歩に付き合ったり、チェスの相手をしたりと――うるさくはあったが一人でいると暗いことばかり考えてしまうので、こちらの具合などお構いなしに元気があり余っているレオノーレがそばにいるのは、実はありがたい。
「そういえば、クリスから手紙が届いてるわよ」
「なんでお前が持ってるんだ」
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