騎士――クリスティアンはディルクが横たわる寝台の傍らに跪き、兜と剣を半ば捨てるように置いた。そしてルウェルの手を払いのけ、投げ出されたディルクの左手を恐る恐る握る。
ディルクが弱々しくその指先を握り返すと、切羽詰まっていたクリスティアンの表情は一瞬和らいだ。しかし、
「――お前がついていながら、なぜこんなことに!」
彼は怒号とともに振り返り、躊躇なくルウェルの胸ぐらを掴んだ。
「ディルクが迷子になったんだよ! つかこっちは敵が突っ込んできて大変だったんだぞ! 俺らがばらばらにされるの見てたから、お前らが投入されたんだろ?」
「そんなことはどうでもいい。隊が分断されようとディルク様のそばから離れないのがお前の役目だったはずだ! すぐに合流していればこんなことにはならなかった!」
「いやまあそうなんだけど! あれっいないなーってのにはすぐ気づいたぜ? だから探したのに、あんなに敵陣の深いところまでちょろちょろ迷い込んでるなんて思わねーじゃん」
「黙れ役立たず! 次は私がディルク様に随伴する」
クリスティアンはそのままルウェルを椅子から投げ落とし、空いた席に素早く腰掛けた。そしてもう一度ディルクの左手を握る。
「肝が冷えました。お命が無事でよかった」
泣きそうな顔で笑う幼馴染みを見ていると、戻ってきてよかったな、と少しだけ思った。
でも――。
テナ侯爵の指揮の下、出撃を命じた兵を見送る大公の姿を思い出す。
彼は、ディルクが死ななかったことを喜びはしないだろう。
👏
読んだよ!💖
絵文字で感想を送る!