天槍のユニカ



幕間−1−(5)

* * *

 退却のラッパが吹かれたのは、ディルクが負傷兵用の幕屋に運び込まれた直後だった。
 今日の戦いはこれで終わりだろうが、また明日には次の出撃がある。しかしディルクはこれでお役御免だろう。
 左肩を襲った衝撃は鎧すら破壊した重い斬撃だったらしい。できた傷はいびつで深く、出血もひどかった。ほかに方法がなかったとはいえ、ルウェルの馬で粗雑に運ばれたせいもあり、寝台に寝かされたディルクはほとんど意識がなかった。
 そのうちに傷の縫合を終えたものの、意識を取り戻してみれば痛み止めにと与えられた麻酔薬のせいで身体がまったく動かない。
 血を洗い流したルウェルがやってきたのは、処置を終えたディルクがさらに別の幕屋に運ばれた頃だった。ディルクが死体のようにぐったりと寝ていた寝台のそばに椅子を置き、ルウェルは呆れて見せた。
「ほぼ初めての出撃で戦闘不能かぁー。だっせえなディルク、大公に笑い話のネタやってどうするんだよ」
「お前が、いなくなるのが悪い」
「いや、先にいなくなったのお前だぞ。しかもあんなところまで迷い込みやがって……あー、けどまあ、ごめんな」
 ルウェルは先日の初陣でも、今日の戦闘でも、総指揮官たるテナ侯爵――ディルクの養父でありクリスティアンの父親――から、ディルクのそばにいて守るようにという命令を受けていた。それゆえ今日も出撃したときには隣り合って馬を駆っていたはずなのだが、紡錘陣で突っ込んできた敵の重騎兵に応戦しているうちにはぐれてしまったのだった。
 多少は責任を感じているらしく、ちょっとだけしゅんとした様子でルウェルは頭を撫でてくる。謝られて当然だと思っていたので、ディルクは無言だった。
「クリスは?」
「帰ってきてたぜ」
 別の指揮官のもとにいたもう一人の友人も無事だと分かり、ほっと息をつく。となると、あとの気がかりは一つだった。

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